「夜間に急に体調が悪くなったが、救急車を呼ぶほどでもない」——そうした判断に迷う医療の空白地帯を埋めるのが、ファストドクター株式会社の目指す世界観だ。同社は夜間・休日を中心とした救急往診事業を軸に、オンライン診療・在宅医療支援・地域医療連携まで幅広く展開する、日本最大級の時間外医療プラットフォームを運営している。
創業者の菊池亮氏は現役医師でもあり、「医療者の視点」と「起業家の視点」を両立させた経営スタイルが社内文化に色濃く反映されている。現場の医療課題を肌感覚で知りながら、テクノロジーで仕組みを変えようとする姿勢は、エンジニアからビジネス職まで幅広い職種を引きつける求心力になっている。
転職エージェントとして複数の候補者をご支援した経験からいうと、ファストドクターへの転職は「社会課題解決に本気で関わりたい」「医療領域でビジネスを動かしたい」という志向性が強い人材との相性が抜群によい。一方で、スタートアップならではの不確実性や制度面の整備途上を理解した上で臨むことが重要だ。
企業概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | ファストドクター株式会社 |
| 設立 | 2016年8月 |
| 代表取締役 | 菊池 亮(医師)、水野 敬志 |
| 本社所在地 | 東京都渋谷区恵比寿4丁目20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー32階 |
| 資本金 | 非公開 |
| 従業員数 | 160名(正社員、2026年2月現在) |
| 上場区分 | 非上場(証券コードなし) |
| 売上高 | 非公開 |
| 平均年収 | 526万円程度(OpenWork等参考値) |
| 事業内容 | 時間外・救急医療プラットフォームの運営、オンライン診療、在宅医療支援 |
主要株主には伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、NTTドコモ・ベンチャーズ、グローバル・ブレイン、グロービス・キャピタル・パートナーズ、KDDI Open Innovation Fundなど、国内有数のCVC・VC群が名を連ねる。グループ会社として株式会社クラウドクリニックを有する。
資本金・売上高はいずれも非公開であり、非上場スタートアップとして財務情報の開示が限定的な点は注意が必要だ。転職者として投資先の情報を深掘りしたい場合は、各VCのポートフォリオページや同社のプレスリリース(公式サイト掲載分)を参照することを勧める。
主な事業内容
救急往診事業
夜間・休日に医師を自宅に派遣するコア事業。通常の外来診療が閉まっている時間帯に、適切な医療を届けることで不必要な救急搬送を減らす仕組みを構築している。医師・看護師のマッチングから配車管理、診療記録まで自社プラットフォームで一元管理する点が技術的な強みだ。
オンライン診療事業
スマートフォンやPCを通じた遠隔診療サービス。往診に至らないレベルの相談や軽症への対応、往診後のフォローアップなどに活用される。往診事業との組み合わせにより、軽症から中症まで幅広い患者ニーズに対応できる。
在宅医療支援事業
慢性疾患を抱える患者や高齢者の在宅療養を支援する。訪問診療チームへのサポートや、在宅患者の急変時対応など、地域包括ケアシステムの一翼を担う領域への展開を進めている。
地域医療支援事業
自治体や病院との連携により、地域の医療体制を補完する。夜間救急対応の一部を担うことで、地域病院の負荷軽減に貢献している。地方自治体との公的連携実績が積み上がることで、事業の安定性と信頼性が高まる構造になっている。
企業連携・支援事業
法人向けの産業医サポートや健康支援プログラムを提供。企業の健康経営推進ニーズに対応し、BtoB領域でも収益基盤を多様化している。
治験支援事業
医薬品・医療機器の治験において、患者リクルートや在宅での経過観察支援を行う。同社の医師ネットワークと往診インフラを活用した展開で、医療DXの新たな応用領域として位置付けられている。
ファストドクターの強みと特徴
「時間外医療」という明確なポジション
日本の医療体制において、夜間・休日の救急対応は慢性的な課題とされてきた。軽症患者による救急外来の逼迫、一次救急を担う医療機関の不足——ファストドクターはこの隙間に特化することで、代替不可能なポジションを確立している。同分野での知名度・実績・医師ネットワークの積み上がりは、後発参入者には容易に模倣できない参入障壁になっている。
医師と経営のデュアルリーダーシップ
共同代表制(菊池亮・水野敬志)は、医療ドメインの深い知見と経営・ビジネスの専門性を経営トップが補完し合う体制だ。医療系スタートアップにありがちな「医療現場に強いが事業設計が弱い」「ビジネスは強いが医療の本質からズレる」という二律背反を、人材構成で解決しようとしているといえる。
有力VCからの資本支持
伊藤忠・NTTドコモ・KDDI系のCVCが株主に並ぶことは、医療×通信×小売という異業種との業務提携に発展する潜在的な価値を意味する。単純な資金調達にとどまらず、各社のインフラやネットワークを活用した事業拡大が期待できるエコシステムに組み込まれている。
160名規模で組織設計が進む段階
従業員160名(正社員)という規模は、スタートアップとしての俊敏さと、ある程度の組織的安定性が共存するフェーズだ。全社の仕組みや文化が固まりつつある中で、それを自ら設計・構築した経験として積めるという点が、この時期に入社する最大のメリットのひとつといえる。
ファストドクターの年収事情と働き方・福利厚生
年収水準
平均年収は526万円程度(OpenWork等の参考値)。医療・医薬サービス業界の平均が418万円程度とされる中、相対的に高い水準に位置している。
職種別の幅は大きく、レセプト等の医療事務系職種は420万円前後からスタートする一方、開発エンジニアは最大981万円、ITセキュリティ職では900万〜1,000万円の求人も出ている。ビジネス職(事業企画・営業)はその中間帯に分布する。
給与体系の特徴として、みなし残業45時間込みの月給制が主流となっている点には注意が必要だ。口コミではボーナスや家賃補助がないという声もあり、固定費としての生活設計を重視する方は総合的に判断することを勧める。退職金制度もない。
働き方
リモートワークが推奨されており、地方勤務も可能な体制が整っている。医療インフラ系のスタートアップとして、現場対応が必要な職種とリモート可能な職種が混在しているため、応募時に確認することを推奨する。
完全週休2日制、有給休暇あり。スタートアップとしてはメリハリのある働き方が標準化されている印象で、フルリモート可の求人はエンジニア・プロダクト系職種で多い傾向がある。
福利厚生の現状
成長フェーズのスタートアップとして、大企業と比べると制度面は整備途上の部分がある。退職金なし・家賃補助なし・ボーナス実績の口コミが限定的、という点は入社前に確認しておきたいポイントだ。一方で、「社会課題に直接関わる仕事ができる」「医療×テクノロジーの最前線で経験を積める」という非金銭的な価値を重視して入社する候補者が多い。
社風・カルチャー
コアバリュー「おせっかいな当事者意識」
ファストドクターが全社に浸透させている行動指針のキーワードが「おせっかいな当事者意識」だ。自分の職域を超えて、課題に気づいたら動く——この言葉が示すのは、「自分の仕事じゃないから」という線引きを良しとしないカルチャーだ。
事業の性質上、往診現場で想定外のことが起きたとき、ロールの境界を超えて動ける人材が必要になる。この文化はコンサルや経営企画出身者が多い組織構成とも連動しており、「問題を見つけたら提案まで持っていく」人材が高く評価される。
コンサル・経営企画出身の30代が主力
在籍メンバーのプロフィールを見ると、コンサルティングファームや大手企業の経営企画部門から転じた30代が多い。「仕事の型」があり、数字で語れ、組織を横断した推進力を持つ人材が集まっている。
このことは採用基準にも直結している。ポテンシャル採用ではなく、「これまでに何を成果として残したか」「どう組織を動かしたか」という実績ベースの評価が中心になる。
データ駆動型の企画組織を志向
医療という定性判断が多い領域において、データをもとに意思決定する文化を積極的に取り入れている。事業企画職では、KPI設計→施策立案→効果検証のサイクルを自走できるかが問われる。数字に強く、仮説思考を持つ人材が活躍しやすい環境だ。
スタートアップとしての不確実性
制度・プロセス・役割分担が毎年のように変化する環境は、「安定した組織で決まった仕事をしたい」という人には向かない。逆に「仕組みを作る側に回りたい」「会社の成長と自分の成長を重ねたい」という人には最高の環境になりえる。
転職難易度
難易度: B(スタートアップ水準では選考基準が高い)
医療系スタートアップの中でも、ファストドクターの採用基準は厳格な部類に入る。単に「医療に興味がある」「スタートアップで働いてみたい」というレベルでは通過が難しい。
書類選考では、これまでの職務経歴における具体的な成果・数値・影響範囲が評価される。面接では、過去の実績を深掘りされると同時に、「今の会社や業界を構造的に語れるか」「経営者視点で問題を設定できるか」という思考力の高さが問われる。
選考フローは書類選考から始まり、面接2〜3回で完結するケースが多い。カジュアル面談から入ることも可能で、候補者が企業研究をしながら選考に進みやすい設計になっている。
ビジネス職の場合、実績の豊富なコンサル・経営企画経験者が主なターゲット層となるため、同じポジションに強力な競合候補が並ぶ。「医療業界に入りたい」という志望動機の浅さは書類段階で弾かれるリスクが高く、「なぜ他の医療系スタートアップではなくファストドクターなのか」という明確な理由を言語化しておくことが最重要だ。
ファストドクターに向いている人
医療課題を「仕組みで解決する」ことに本気で関心がある人
「医療はすごく大事」という漠然とした動機ではなく、「日本の医療体制のどこに課題があり、テクノロジーでどう変えられるか」を自分の言葉で語れる人が向いている。
コンサル・経営企画の経験を「事業を動かす」方向に使いたい人
戦略立案や分析が得意なだけでなく、自ら手を動かして事業推進まで担いたい人。アドバイザーではなく、当事者として動ける覚悟がある人だ。
スタートアップの変化を楽しめる人
職域・ルール・優先事項が変わっても、状況をポジティブに解釈し自己変革できる柔軟性がある人。「自分がゼロから作った仕組みが残る」ことに価値を感じられる人。
自走できるジェネラリスト志向の人
「言われた仕事をこなす」のではなく、課題を自ら見つけ、解決策を設計し、関係者を巻き込んで実行するサイクルを自然にこなせる人。
医療×テクノロジー領域でキャリアを差別化したい人
将来的に医療DX・ヘルステック領域でキャリアを積みたい人にとって、同社での実績は市場価値の観点で非常に有効なシグナルになる。
ファストドクターに向いていない人
制度・福利厚生の充実を重視する人
退職金なし・家賃補助なし・ボーナス不安定という現状を踏まえると、大手企業並みの福利厚生を期待して入社すると入社後ギャップが生じやすい。生活費の固定費を安定した制度で支えたいという方には別の選択肢を勧める。
ロールの明確な分業を好む人
「自分の仕事の範囲がはっきりしていて、その中で集中したい」という志向は、「おせっかいな当事者意識」を求める文化と相性が悪い。職域の曖昧さにストレスを感じやすい人は入社後の摩擦が起きやすい。
医療業界の専門知識だけを武器にしたい人
医師や看護師などの国家資格職での採用もあるが、ビジネス職・プロダクト職においては医療知識だけではなく、ビジネス推進力・データ分析力・コミュニケーション設計能力が求められる。「医療が好き」だけでは推進力として不十分な場面が多い。
大きな会社の安定感・ブランドを求める人
非上場スタートアップであり、IPOや会社売却のタイミングも不明確だ。「名前の知れた大企業に転職したい」という動機が強い人には向かない。
評価されやすい経験・スキル
ビジネス職・事業企画
- 戦略コンサルティングファームでの実務経験(課題設定〜提案〜実行支援まで)
- 大手企業の経営企画・事業開発部門でのKPI管理・施策推進経験
- 新規事業の立ち上げに携わった経験(0→1フェーズの体験)
- 自治体や病院など公的機関との折衝・アライアンス経験
エンジニア・プロダクト
- プロダクトマネージャーとしてのデータドリブンな意思決定経験
- バックエンド開発(医療系システム連携・API設計など)
- セキュリティ設計・医療情報系のコンプライアンス対応経験
- ユーザーリサーチをもとにしたプロダクト改善のサイクル経験
コーポレート・管理部門
- 人事・採用業務の経験(スタートアップ成長期の組織拡大を支えるHRBP系人材を求める場面あり)
- 法務・コンプライアンス経験(医療法・個人情報保護法等の医療業界特有の規制への対応力)
- 財務・経営管理の経験(CFO候補・FP&A系のポジションで専門性ある人材を優遇)
共通
- 複数部署を横断して課題解決を推進したプロジェクトリード経験
- 数値をもとにした仮説検証と説明資料の作成経験
- ミッション・バリューへの共感を言語化できること
- 医療業界の構造(診療報酬制度・在宅医療の法規制・医師不足の背景等)への基礎知識
ファストドクターの選考対策
面接で必ず聞かれる質問と回答の方向性
「5年スパンでどんなキャリアを築きたいか」
漠然とした「成長したい」ではなく、「医療DX領域でこういう課題を解決する人材になりたい」「プロダクト責任者としてこういう意思決定ができるようになりたい」など、具体的な像を持って語ること。ファストドクターで何を習得し、その先にどんなキャリアがあるかまで繋げると説得力が増す。
「今いる会社の社長に5分プレゼンするなら、どんな経営課題をプレゼンするか」
これは「視座の高さ」を測る設問だ。現場の不満ではなく、自社の市場ポジション・競合・内部課題を構造化した上で、「自分ならこう解決策を提示する」という経営者目線の提案にまで落とし込むことが求められる。事前にしっかりと自社・自業界を分析して準備すること。
「自分の職域を飛び越えて提案した経験はあるか」
コアバリュー「おせっかいな当事者意識」に直結する設問。「本来自分の担当ではなかったが、課題を見つけて動いた経験」を具体的なエピソードで語れるよう準備する。単なる越権行為の話ではなく、組織に何をもたらしたかという成果まで語れると理想的だ。
「職域超越・KPI設定経験」
自分が設定したKPIと、そこに至った思考プロセスを説明できるようにしておく。「上から降ってきたKPIをこなした」ではなく、「こういう仮説のもとこのKPIを設定し、こう検証した」という主体性のある語りが評価される。
カジュアル面談の活用
書類選考の前後でカジュアル面談の機会がある。単なる「会社説明を聞く場」と捉えず、「自分が何に課題意識を持ち、ファストドクターで何を実現したいか」を率直に話す機会として使うと効果的だ。先方の採用担当・現場社員の話を引き出しながら、企業研究と自己分析を並走させることを推奨する。
医療業界知識の事前インプット
ビジネス職でも、日本の救急医療体制・在宅医療の課題・オンライン診療の法規制環境などの基礎知識は最低限インプットしておくこと。「医療の課題を語れるか」は採用側が見ているポイントのひとつだ。一次情報(厚労省の資料・同社のプレスリリース等)をもとに自分の見解を作っておくと差がつきやすい。
まとめ
ファストドクター株式会社は、日本の医療体制における「時間外・救急」という慢性的な課題に正面から向き合い、テクノロジーで解決しようとするヘルステックスタートアップだ。非上場(証券コードなし)ながら、大手CVC・VCからの資本支持を受け、従業員160名規模まで成長してきた。
平均年収526万円(参考値)は医療・医薬業界平均を上回っており、特にエンジニア・ITセキュリティ職では高水準の求人が出ている。一方でボーナス・退職金・家賃補助といった大企業型の福利厚生は期待しにくく、スタートアップとしての不確実性と向き合う覚悟が必要だ。
文化面では「おせっかいな当事者意識」というバリューが示す通り、職域を超えて課題に向き合う自走型の人材が活躍する環境が整いつつある。コンサル・経営企画出身の30代を中心に、データ駆動型の組織づくりを進めている点は転職者にとって働きやすい側面でもある。
転職エージェントの目線から総合すると、「医療課題を構造的に理解した上でビジネスを動かしたい」「スタートアップの初期〜成長フェーズで仕組みを作る経験を積みたい」という明確な志向を持つ候補者に、特に強くお勧めできる企業だ。選考難易度はBと高めだが、しっかりと準備すれば独自性のある経験と評価が得られる転職先として検討する価値がある。
ファストドクターへの転職を検討する際のチェックリスト
転職を具体的に進める前に、以下の点を自分に問いかけてみてほしい。
- 日本の時間外医療・救急体制の現状課題を、自分の言葉で説明できるか
- 「おせっかいな当事者意識」を体現した具体的なエピソードが3つ以上語れるか
- スタートアップ環境(制度整備途上・役割流動性・不確実性)を楽しめる準備があるか
- 5年後に「医療×テクノロジー」の領域でどんな人材になりたいかビジョンが描けているか
- 福利厚生・退職金・ボーナスの不整備を理解した上で、生活設計が成り立つか
これらにポジティブに答えられるなら、ファストドクター株式会社はあなたのキャリアを大きく加速させる選択肢になりうる。まずは採用公式サイトのオープンポジションから自分に合う職種を確認し、カジュアル面談の機会を活用することをお勧めする。
転職エージェントとしての総評
| 評価項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 年収水準 | ★★★☆☆ | 業界平均超だが大企業比は平均的。エンジニアは高水準 |
| 成長機会 | ★★★★★ | 仕組みを作る経験・医療DX最前線での希少な実績が積める |
| 働き方 | ★★★★☆ | リモート推奨・フレキシブルだが職種差あり |
| 社風 | ★★★★☆ | 自走型・課題解決志向。コンサル出身者と相性よし |
| 転職難易度 | B | 実績・思考力・志向性の3点セットが問われる |
| 安定性 | ★★★☆☆ | 非上場スタートアップとして成長中。IPO時期は未定 |
