「事業企画に転職したいのですが、何を準備すればいいですか?」──この質問を月に10回以上は受けます。それほど人気が高い一方で、「実際に何をしているのか分からない」という声も絶えない職種です。

事業企画は、企業の成長エンジンに直結する仕事です。新しい事業を立ち上げたり、既存事業のKPIを設計して施策を推進したりと、会社の「売り上げをどう作るか」に最も近い場所で働きます。経営層からも、現場からも見える位置に立てるのが特徴です。

ただし、華やかに見える仕事の裏側には、数字へのプレッシャーや社内調整の泥臭さがあります。「戦略を考えるだけでいい」という仕事では、まったくありません。この記事では、人材エージェントとして20年間、事業企画人材の転職を支援してきた視点から、仕事の実態・年収・キャリアパスをできるだけ正直に解説します。


事業企画とは何か

事業企画(Business Planning)は、特定の事業・プロダクト・サービスの成長戦略を立案し、実行を推進する職種です。

「経営企画」と混同されることが多いですが、役割の射程が異なります。

比較軸経営企画事業企画
視座会社全体(コーポレート)特定の事業・部門
主な業務中期経営計画、IR、M&A、全社予算事業KPI設計、施策立案、新規事業検討
経営層との距離非常に近い(直接補佐)中程度(事業部長・BU長と連携)
現場との距離遠め近い
意思決定スピード比較的ゆっくり速い(事業の動きに合わせる)

経営企画が「会社の羅針盤を設計する役割」だとすれば、事業企画は「羅針盤の通りに船を走らせ、必要なら航路を変える役割」です。経営企画より現場の数字に直接関わり、PDCAを素早く回すことが求められます。


具体的な仕事内容

事業企画の業務は、企業規模や事業フェーズによって大きく変わります。以下に代表的な業務を挙げますが、実際の求人では「全部やる」ことを期待されるケースも多いです。

事業戦略・計画の立案

市場調査や競合分析を踏まえ、事業の方向性・KPI・アクションプランを設計します。「今期、どの指標をどれだけ伸ばすか」「3年後にどこを目指すか」を数字で示す仕事です。

施策の推進・プロジェクト管理

立案した戦略を実行フェーズに移します。マーケティング・エンジニアリング・営業・カスタマーサクセスなど複数部門を横断してプロジェクトを推進します。「考えるだけ」ではなく「動かす」ことが求められます。

KPI設計・数値モニタリング

事業の健全性を測る指標を設計し、日次・週次・月次でモニタリングします。「数字が悪化しているとき、何が原因か」を素早く仮説立てして改善策を提案します。

新規事業・新機能の検討

既存事業の隣接領域や、まったく新しいビジネスモデルを検討します。PoC(概念検証)の設計から、事業化の可否判断まで携わります。

アライアンス・パートナーシップ

事業成長を加速させるため、他社との提携や協業を検討・推進します。契約交渉やスキーム設計を含む場合もあります。

経営報告・意思決定支援

経営層への報告資料作成、取締役会・経営会議向けの資料準備なども事業企画の守備範囲に入ることがあります。


大手・中小・スタートアップでの役割の違い

同じ「事業企画」でも、企業規模によって求められることが大きく異なります。転職先を選ぶ際の重要な視点です。

企業規模特徴求められること
大手(従業員1,000人以上)役割が分業化。「戦略立案担当」「KPI管理担当」に分かれていることが多い社内調整力、資料作成の精度、ステークホルダー管理
中規模(100〜999人)戦略立案から実行推進まで一人で担うことが多い幅広い業務を器用にこなす実行力
スタートアップ(〜99人)事業企画という肩書がなく「bizdev」「事業開発」として採用されることが多い手を動かす速さ、不確実性への耐性、自走力

リクルートでは「事業企画・事業開発」として各プロダクト(リクナビ・スタディサプリ等)に専属チームを持ち、KPI改善と新機能開発を一体で推進します。メルカリはマーケットプレイス事業のグロース担当として、事業企画スペシャリストを継続採用しています。こうした大手・メガベンチャーの事業企画は、専門性が高く即戦力性が求められる分、育成機会は限られます。

逆にスタートアップでは「何でもやる」経験を積める反面、仕組みがないところから自分で作る体力と精神力が要ります。「スタートアップで経験を積んで大手に移る」キャリアパスが現在は最も評価されやすい傾向にあります。


必要なスキル・経験

事業企画に必須の資格はありません。ただし、以下のスキルと経験が求人で共通して求められます。

スキル一覧

スキル概要難易度
ロジカルシンキング課題を構造化し、因数分解して解決策を導く必須
データ分析SQL・Excel・BIツールで事業指標を読む必須(レベルは企業次第)
財務・会計の基礎P&L管理、予実比較、投資対効果の計算重要
プロジェクト管理複数部門を横断したスケジュール・タスク管理必須
コミュニケーション力経営層・現場・他部門への説明・調整必須
プレゼンテーション資料作成(PowerPoint/Google Slides)と口頭説明重要
マーケティング知識顧客理解、市場分析、競合把握あると強い
英語力グローバル展開企業では必須になることも企業次第

評価される経験

  • 営業・マーケ・コンサル出身で「数字を動かした実績」がある人
  • 事業計画書や提案資料を自力で書いた経験
  • 複数部門を巻き込んでプロジェクトを完遂した経験
  • 新規事業や新機能立ち上げに関わった経験(規模問わず)

有利な資格・学歴

MBA(国内・海外問わず)は、論理的思考力と経営知識の証明として評価されますが、「MBAがなければ門前払い」という企業はほとんどありません。中小企業診断士は実務知識として評価されます。TOEICは外資・グローバル企業で一定の目安になります。


年収帯(企業規模・経験年数別)

事業企画の年収は、企業規模・事業フェーズ・ポジション(担当者・マネージャー・事業責任者)で大きく変わります。Indeed・doda・求人ボックスの公開データを参考に、市場感をまとめました。

企業規模別の年収目安

企業規模担当者(3〜5年目)マネージャー事業責任者・BU長
大手・上場企業550〜750万円750〜1,000万円1,000万円〜
中規模企業450〜650万円650〜850万円850〜1,200万円
スタートアップ(シリーズB以降)500〜700万円+ストックオプション700〜1,000万円+SO1,000万円〜+SO
スタートアップ(シリーズA以前)350〜550万円+SO550〜750万円+SO750万円〜+SO

求人ボックスの調査によると、新規事業企画の平均年収は569万円で、企画職種の中で最も高い水準です。Indeed掲載の事業企画求人の平均も同水準です。

注意点

スタートアップのストックオプション(SO)は、IPOや売却が実現しなければ現金化されません。「SOありで年収が低い」求人には、事業の成長可能性を冷静に評価してから飛び込む必要があります。逆に上場直前のスタートアップでは、SOが大きなリターンになるケースもあります。


どんな人にオススメか

向いている人(5項目)

1. 数字と言葉の両方で考えられる人 データを読んで「なぜこうなっているか」を言語化し、「どう変えるか」を人に伝えられる。分析力とコミュニケーション力の両方が必要です。

2. 「巻き込み力」がある人 事業企画は、自分の部署だけで完結しません。エンジニア・マーケター・営業・CS・経営層など多様なステークホルダーを巻き込んで動かす力が、成果を左右します。

3. 事業や市場への好奇心が強い人 「この事業がなぜ伸びているのか」「競合はどう動いているか」を常にアンテナを立てて考えられる人。業務時間外でも情報収集を楽しめるかどうかが長続きの鍵です。

4. 曖昧な状況でも前に進める人 正解のない問いに向き合うのが事業企画です。「こうすれば必ず正解」という状況はまれで、不確実性の中で仮説を立て、検証し、修正し続けるサイクルに耐えられる人が向いています。

5. 結果に責任を持てる人 事業企画は「ただ提案するだけ」ではなく、自分が立てた計画の結果が数字に出ます。KPIが未達なら原因を分析して改善策を出す、それを繰り返せる人に向いています。

向いていない人(3項目)

1. 「自分の仕事だけしたい」人 部門横断の調整・折衝・説明が日常業務の大半を占めます。他部署との連携を面倒に感じる人には、ストレスの多い仕事になります。

2. 計画を立てたら終わりと思っている人 事業企画は企画書を書いて終わりではありません。実行フェーズにも関与し、数字を見ながら都度修正を加えます。「考えることが好き・実行は苦手」という人はフラストレーションを感じやすいです。

3. 短期成果を求める人 施策を打っても成果が出るまでには時間がかかります。四半期の数字に一喜一憂しすぎると消耗します。中長期的な視点で粘り強く推進できるかが問われます。


キャリアパス

入社〜3年目:担当者フェーズ

担当事業のKPIモニタリング、資料作成、プロジェクト推進のサポートが中心です。この期間に「数字の読み方」「社内調整の作法」「事業の構造理解」を徹底的に身につけます。

3〜5年目:リード・マネージャーフェーズ

複数施策を自分でリードするか、チームメンバーをマネジメントする立場になります。経営層への提案機会も増え、「事業をどう伸ばすか」をより広い視野で考えます。この段階での転職が最も市場価値が高く評価されます。

5〜10年目以降:事業責任者・経営幹部

事業部長・BU長・子会社社長・COO・CPO(Chief Product Officer)など、事業そのものを預かるポジションに昇進するケースが多いです。経営企画への異動で全社目線に切り替えるパターンもあります。

転職先の候補

転職先評価されるポイント
他社の事業企画・事業開発KPI改善実績、新規事業の立ち上げ経験
経営企画数値管理力、全社横断プロジェクトの経験
スタートアップの創業メンバー・COO事業設計力、オーナーシップ
コンサルティングファーム戦略立案力、論理的思考力
VC(ベンチャーキャピタル)事業評価の目線、スタートアップ経験
PdM(プロダクトマネージャー)プロダクト開発への関与経験がある場合

事業企画の経験は「ポータブルスキルが高い」と転職市場で評価されます。「特定企業のやり方しか知らない」にならないよう、業種を超えた知識・スキルを意識的に積むことが重要です。


転職市場での需要と難易度

需要は高いが求人数は限られる

企業にとって事業企画は「コア人材」であり、外部採用で積極的に埋めたいポジションです。一方、各社1〜3名程度の少数精鋭チームで運営されることが多く、求人が出るタイミングは限られます。

「転職サイトに常時掲載されている」職種ではなく、好機を逃さず動くことが重要です。

転職難易度:中〜高

経験者区分難易度補足
同職種からの転職実績次第でオファー多数
営業・マーケからの転職中〜高「数字を動かした」実績が必須
コンサル→事業会社戦略は評価される。実行経験が問われる
未経験(他職種)からの転職周辺職種(営業企画・マーケ)を経由するのが現実的

採用企業が最も重視するのは「事業の数字を動かした実績」です。ポジション名が「事業企画」でなくても、「施策を企画・推進してKPIを〇%改善した」という経験があれば評価されます。逆に、肩書きだけ事業企画でも実態が資料作成・データ集計に終始していた場合は、転職で苦戦することがあります。

面接で問われる典型的な質問

  • あなたが推進した施策で、最も成果が出たものを教えてください(数字で)
  • 事業のKPIが急に悪化した。どのように分析・改善しますか?
  • 社内の反対意見をどう乗り越えてプロジェクトを進めましたか?
  • 3年後、この事業をどう成長させたいと考えますか?

これらは「実績を持っているか」「事業思考があるか」「巻き込み力があるか」を同時に確認する設問です。具体的な数字・状況・行動・結果をセットで話せるように準備してください。


まとめ

事業企画は、企業の成長に直接コミットできる、やりがいの大きい職種です。ただし「戦略を考えるだけ」という仕事ではなく、数字へのプレッシャー・社内調整の泥臭さ・不確実性への耐性が求められます。

転職市場での評価は高く、「KPIを動かした実績」と「巻き込み力」があれば、経験者は比較的スムーズに次のポジションを見つけられます。一方、未経験者はまず営業企画・マーケティング・コンサルなど周辺職種で「数字を動かした実績」を積んでからの転職が現実的です。

「会社の事業そのものに関わり、事業責任者や経営幹部を目指したい」という方にとって、事業企画は最短距離のキャリアの一つといえるでしょう。


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