エンジニアリングマネージャー(EM)とは?
一言でいうと、「エンジニアチームの生産性と成長に責任を持つ人」 です。
コードを書く個人プレーヤーから、チームの成果に責任を持つ立場へシフトする——それがEMへのキャリアチェンジの本質です。技術を深く理解しながら、採用・育成・評価・組織設計まで担い、エンジニア組織全体をドライブする役割を指します。
「マネージャー」と聞くと純粋な管理職をイメージしがちですが、EMは経営と現場エンジニアの橋渡しをしつつ、自分自身も技術の文脈を失わずに意思決定に加わる点が特徴です。職種の英語名が示すように、「エンジニアリング(技術)をマネジメントする人」であり、単なる人事管理職とは一線を画します。
エンジニアリングマネージャーの仕事内容
EMの業務は大きく4つの領域に分類できます。実際の求人票(楽天、SmartHR、メルカリ、Forkwell Jobs掲載各社など)を分析しても、この4領域が繰り返し登場します。
1. ピープルマネジメント
EMの業務の中核です。メンバー個々のモチベーション・キャリア・評価に向き合い、チームとしての成果を引き出します。
- メンバーの目標設定・評価・フィードバック(1on1の運営)
- エンジニアの採用活動(面接・ジョブディスクリプション設計・採用基準の策定)
- オンボーディング設計・育成プラン策定
- チームエンゲージメントの向上施策
エンジニア特有の難しさは、「技術的な成長ニーズ」と「組織の事業ニーズ」を同時に満たし続けることにあります。20年のキャリアで複数のEM候補と関わってきましたが、ここで躓く人が最も多い印象です。
2. テクノロジーマネジメント
技術的な方向性を決め、チームの技術的負債と向き合います。
- 技術選定・アーキテクチャの意思決定への参加
- 技術的負債の可視化と解消計画の立案
- 開発環境・ツールの整備
- セキュリティ・品質基準の維持
EMは自らコードを書く量は減りますが、「コードを読む力」「技術トレードオフを判断する力」は必須です。現場エンジニアが「この人は技術をわかっている」と思えなければ、信頼関係は築けません。
3. プロジェクト・プロセスマネジメント
開発の進め方そのものを設計・改善する役割です。
- 開発スプリントの設計・スクラムマスター的な役割
- ロードマップに基づいたリソース配分
- リスク管理・リリース判断
- 他部署(PdM・デザイン・ビジネスサイド)との折衝
アジャイル開発の普及とともに、EMがスクラムやカンバンの導入・改善を主導するケースが増えています。プロセスの「型」を作るだけでなく、チームの実態に合わせて継続改善する姿勢が求められます。
4. 組織間連携・上位マネジメントとの橋渡し
現場の技術課題を経営言語に翻訳し、経営層の意思決定を現場に落とし込むのもEMの重要な役割です。
- 経営・事業責任者への技術状況の報告
- 採用予算・ツール投資の稟議
- 他チームのEMとの連携・組織横断プロジェクトの推進
エンジニアリングマネージャーに必要なスキル
技術スキル(Hard Skills)
| スキル領域 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 開発経験 | Webアプリ・インフラ等での実務開発5年以上が目安 |
| アーキテクチャ理解 | クラウド(AWS/GCP/Azure)、マイクロサービス設計など |
| 開発プロセス | アジャイル・スクラム・CI/CD・コードレビューの経験 |
| 採用実務 | ジョブディスクリプション作成・技術面接の実施 |
マネジメントスキル(Soft Skills)
| スキル領域 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 1on1・コーチング | メンバーのモチベーション・課題を引き出す対話力 |
| 目標管理 | OKR・MBO等のフレームを使った目標設定と進捗管理 |
| フィードバック | 建設的かつ具体的なフィードバックを日常的に行う力 |
| コンフリクト解決 | チーム内の対立・課題を早期に察知して対処する力 |
| ステークホルダー管理 | 経営・PdM・ビジネス職との交渉・期待値調整 |
求人票を横断的に見ると、「技術力+マネジメント経験」に加え、近年は生成AI・LLMの活用推進経験を加点要素とする企業が急増しています。
エンジニアリングマネージャーの年収帯
複数の転職媒体・エージェントデータを統合した目安です。
| 経験・フェーズ | 年収目安 | 主な企業例 |
|---|---|---|
| EM未経験(テックリード・上位エンジニアからの転身) | 600〜800万円 | 中堅SaaS・スタートアップ初期フェーズ |
| EM経験1〜3年(チーム規模3〜10名) | 800〜1,100万円 | 成長期スタートアップ・メガベンチャー |
| EM経験3年以上(複数チーム・組織設計経験あり) | 1,100〜1,500万円 | 大手テック・上場ベンチャー |
| シニアEM・VPoE候補(組織全体のマネジメント) | 1,500万円〜 | メルカリ・楽天・LINEヤフー等の大手 |
JACリクルートメントの調査では、EMとして転職した人の平均年収は約1,100万円、最高年収は2,600万円超という数字も出ています。Forkwell Jobsに掲載の求人上限年収最高値は2,700万円に達しており、経験と実績次第で相当なレンジに達します。
一方、スタートアップではストックオプションとの組み合わせで報酬設計されるケースも多く、基本給だけで比較するのは不十分です。「オファー全体の設計」を見る目が必要です。
エンジニアリングマネージャーに向いている人
20年間、ITエンジニアの転職支援をしてきた経験で言うと、EMとして長く活躍する人には共通した特性があります。
向いている人
- 人の成長を自分のやりがいにできる人:メンバーが壁を越えた瞬間を「自分ごと」として喜べるかどうか、ここが最大の分岐点です
- 曖昧な問いを整理するのが好きな人:「チームの生産性が低い」という問題を分解し、原因を特定する構造化思考が常に求められます
- 技術を捨てずに人に向き合える人:コードを書く量は減っても、技術的な判断軸を持ち続けられること
- フィードバックを恐れない人:良いことも悪いことも、早く・率直に・敬意を持って伝えられるコミュニケーション力
- 不確実性に耐えられる人:チームの状況は常に変化します。計画通りにいかない状況を受け入れ、柔軟に方向転換できる力
向いていない人
- コードを書き続けることに最も価値を感じている人(それはテックリードやスタッフエンジニアの道が合っている)
- 評価や人事決定に強いストレスを感じる人
- 短期的・個人的な成果に集中したい人
エンジニアリングマネージャーのキャリアパス
EM前のキャリア(どこから来るか)
EMはほぼ全員、エンジニアとしてのキャリアを経てなります。典型的なルートは以下の通りです。
エンジニア(3〜5年)
→ シニアエンジニア / テックリード(2〜3年)
→ エンジニアリングマネージャー
一部の企業では、テックリードと並走しながらEMを兼務する「プレイングマネージャー型」のポジションも増えています。スタートアップではこのパターンが多く、初めてのEM経験を積む場として活用する転職者も少なくありません。
EM後のキャリア(どこへ行くか)
| キャリアパス | 概要 |
|---|---|
| VPoE(VP of Engineering) | 複数チームのEM群を束ねる、エンジニア組織全体のマネジメント責任者 |
| CTO | 技術戦略の最高責任者。経営レイヤーへの参画 |
| テックリードへの回帰 | 「やっぱり技術が好き」という判断でスタッフエンジニア・テックリードに戻るケースも珍しくない |
| 独立・起業 | エンジニア組織の立ち上げ経験を活かして起業、または技術顧問・フリーランスEM |
EMを経験したのちVPoEやCTOへ進むルートが最も一般的ですが、「マネジメントが合わなかった」としてテックリードに戻る人も一定数います。これは失敗ではなく、適切な自己認識であり、優秀なエンジニアが組織に残る健全なキャリア設計だと私は考えています。
エンジニアリングマネージャーの転職市場動向
求人数・需要
2026年現在、EMの求人は急増が続いています。主な背景は以下の3点です。
- DX推進の加速:製造・金融・流通など非テック企業でのデジタル化投資が本格化し、エンジニア組織の立ち上げニーズが増大
- 生成AI導入の実装フェーズ突入:AIツールを活用する開発チームのマネジメントができるEMへの需要が急増
- スタートアップの成熟化:シリーズB〜C以降の成長フェーズに入ったスタートアップが、初めてのEM採用を本格化
LinkedIn掲載のEM求人は日本国内だけで558件(2026年6月時点)、Forkwell Jobsでは75件超が掲載されています。高い需要に対して供給が追いつかない「売り手市場」が続いており、経験者の市場価値は高水準で推移しています。
転職時に見られるポイント
採用担当者・面接官が実際に確認しているのは以下の点です。
- チームの成果:「あなたのマネジメントでチームがどう変わったか」を数字・エピソードで語れるか
- 失敗経験の処理:メンバーが退職した、プロジェクトが遅延した——そういう経験をどう分析し、何を変えたか
- 技術判断の実績:採用した技術選定・アーキテクチャ変更の背景と成果
- 採用実績:何人採用し、どう育てたか
「マネジメントをやっています」という事実ではなく、「マネジメントを通じてチームがどう変わったか」を具体的に語れる人が内定を取ります。
転職活動の注意点
EMの求人は表に出ないものも多く、エージェント経由での非公開求人が相当数あります。特にシニアEM・VPoE候補は、ハイクラス転職サービス(ビズリーチ、JACリクルートメント等)経由のオファーが多い傾向です。転職活動は早めにレジュメを整備し、複数チャネルで並走することを推奨します。
まとめ
エンジニアリングマネージャーは、技術を手放さずに「人と組織の生産性」に責任を持つ、ITエンジニアのキャリアの中でも特に幅広い能力が求められる職種です。
- 平均年収は800〜1,100万円台が中心、経験次第で1,500万円超も現実的
- 需要はDX・AI推進の波で急増中。売り手市場が続いている
- テックリードとは異なり、「人の成長に責任を持つ」ことへの覚悟が必要
- EMの先にはVPoE・CTOというキャリアパスが開かれている
「コードを書き続けるのか、それとも組織を動かすほうに軸足を移すのか」——EMへの転身はその分岐点です。転職を検討する際は、自分がどちらに本質的なやりがいを感じるかを正直に掘り下げてみてください。
参照情報源
- エンジニアリングマネージャー(EM)への転職は未経験でも可能?転職市場動向や最新求人を解説 | JACリクルートメント
- エンジニアリングマネージャーの年収は?役割・スキル・転職方法も | GeeklyMedia
- エンジニアリングマネージャー(EM)とは|仕事内容・年収・PMやテックリードとの違い | フリコン
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