1. はじめに——「マーケティング戦略」が注目される理由

転職市場でマーケティング職への求人数は2020年以降増加傾向にあり、2026年も引き続き活況が続いています。特に事業会社でのインハウスマーケティング強化、SaaSビジネスの拡大、AI活用による施策高度化といった波が重なり、「マーケティング戦略」を担う人材への需要は過去最高水準に近づいています。

一方で「マーケティング戦略って具体的に何をするの?」という疑問を持つ方も多い。私は人材業界で20年近く、マーケティング職専門の転職支援を行ってきましたが、この職種ほど「求人票の表現が抽象的で実態が見えにくい」と候補者に言われる職種は他にありません。

この記事では、マーケティング戦略担当の仕事内容・必要スキル・年収・キャリアパスを、実際の求人票と現場の声をもとに解説します。転職を検討している方の判断材料になれば幸いです。


2. マーケティング戦略とはどんな職種か

一言で言うと

「どの市場で」「どんな顧客に」「どんな価値を」「どのように届けるか」を設計し、実行に落とし込む仕事です。

マーケティング戦略は、以下の問いに答えることが本質的な役割です。

  • 自社のターゲット顧客は誰か(STP分析:セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
  • 競合と比べて何が強みか(差別化・バリュープロポジション)
  • どのチャネルで、どのメッセージで、いつ届けるか(4P/4C:製品・価格・流通・プロモーション)
  • 施策の効果をどう測り、次にどう活かすか(KPI設計・PDCAサイクル)

「マーケティング戦略」と他のマーケティング職の違い

マーケティング職には多くの職種がありますが、マーケティング戦略は最も上流工程を担います。

職種役割のポジション主な業務
マーケティング戦略上流(方針策定)市場分析・戦略立案・KPI設計
デジタルマーケティング実行(オンライン施策)SEO・広告運用・SNS・メール
ブランドマネージャー上流〜中流ブランド価値の定義・管理
マーケティングプランナー中流(企画)キャンペーン企画・クリエイティブ方針
データアナリスト支援(分析)効果測定・インサイト抽出

マーケティング戦略担当は、こうした各専門職の仕事を束ねる「方針の設計者」に近い位置づけです。ただし、実際の求人では「戦略立案から施策実行まで一人で担う」というケースも多く、特にスタートアップや中小企業では一人で全工程を担当することも珍しくありません。


3. 実際の仕事内容

市場調査・競合分析

まず事業が戦う市場の全体像を把握します。市場規模・成長率・主要プレイヤーの動向・規制環境・顧客ニーズの変化などをリサーチし、「今の自社はどこに立っているか」を明確にします。

具体的には以下のような作業を行います。

  • 外部データ(矢野経済研究所・日経BPレポート・各種白書)の収集と読み込み
  • 競合各社のWebサイト・IR資料・SNS・求人票の分析
  • 顧客インタビューやアンケート調査の設計・実施・分析
  • SWOT分析・3C分析・PEST分析などのフレームワーク活用

ターゲット設計とポジショニング

市場の全体像が見えたら、自社が狙うべき顧客セグメントを絞り込みます。「誰に売るか」が曖昧なままでは、どんな施策も機能しません。

  • ペルソナ設計(年齢・職種・価値観・課題・購買行動パターン)
  • カスタマージャーニーマップの作成
  • ポジショニングマップでの自社の立ち位置定義
  • バリュープロポジション(なぜ自社を選ぶべきか)の言語化

年間マーケティング計画の策定

事業目標(売上・新規顧客数・LTV向上など)から逆算し、どの施策にいつ・どれだけ投資するかを計画します。予算配分とKPIの整合をとりながら、四半期・月次・週次でPDCAを回します。

  • 年間予算の策定と配分(広告費・イベント費・人件費など)
  • チャネル別KPI設定(Web流入・リード数・商談化率・成約率など)
  • 各施策の優先順位付けとスケジュール管理

施策の実行管理・効果検証

計画を立てたら実行に移します。社内の営業チーム・デジタルマーケチーム・クリエイティブチームや、外部の広告代理店・制作会社と連携しながら施策を推進します。

  • 各施策の進捗管理とPDCA
  • 広告クリエイティブの方向性レビュー
  • ランディングページ・コンテンツの改善提案
  • 施策の効果測定・レポーティング(Google Analytics・MAツール・CRMなど)

経営陣・関係部署へのプレゼンテーション

マーケティング戦略担当は「マーケティングの代表者」として経営会議・取締役会でプレゼンを行う機会が多い職種です。データに基づいた根拠を持ちながら、ストーリーとして説明できる力が問われます。


4. 必要スキル

ビジネス・マーケティングの知識

マーケティングの基本理論(STP・4P・カスタマージャーニー)はもちろん、事業の仕組みを理解するビジネスセンスが必須です。「なぜその市場で自社が勝てるのか」を論理的に説明できる力が求められます。

データ分析力

感覚ではなくデータで判断できることが必須です。Excelやスプレッドシートはもちろんのこと、Google Analytics・BIツール(Tableau・Lookerなど)・MA(マーケティングオートメーション)ツールを使いこなせると強みになります。SQLが書けると、さらに重宝されます。

論理的思考力と仮説構築力

「なぜ売上が伸び悩んでいるのか」という問いに対して、データと市場知識から仮説を立て、検証を設計できる力です。コンサルティング的な思考法とも重なります。

コミュニケーション・調整力

マーケティング戦略担当は、経営層・営業・開発・デザイン・外部パートナーなど多くのステークホルダーと連携します。専門用語を使わずに意図を伝える力と、関係者を巻き込むファシリテーション力が重要です。

プレゼンテーション・資料作成力

戦略を経営陣や社内外に説明するための資料作成(PowerPoint・Google スライド)と、場を動かすプレゼンテーション力が求められます。

デジタルマーケティングの知識(加点要素)

SEO・Web広告(リスティング・ディスプレイ・SNS広告)・コンテンツマーケティング・メールマーケティングなどの実務経験があると、より幅広い施策を自身で判断・指示できます。近年はAI活用(生成AIによるコンテンツ制作・広告クリエイティブ)の知識も求められるようになっています。


5. 年収帯

マーケティング戦略担当の年収は、経験年数・担当範囲・会社規模・業界によって大きな差があります。以下は2025年時点の市場相場感です。

経験・ポジション年収目安
未経験〜3年(マーケター)400万〜550万円
3〜7年(シニアマーケター)550万〜750万円
マネージャークラス(チームリード)700万〜950万円
マーケティング部長・Director900万〜1,200万円
CMO(最高マーケティング責任者)1,000万〜2,000万円以上

業界別の傾向

  • 金融・保険:マーケティング職の中で最も年収が高い傾向。900万〜1,500万円の求人も
  • IT・SaaS:700万〜1,200万円。グローバルSaaSは特に高く設定
  • 消費財(FMCG):500万〜900万円。外資系メーカーは高待遇
  • 広告・コンサル:450万〜900万円。インセンティブが加わるケースも
  • スタートアップ:基本給は300万〜700万円と幅があるが、ストックオプション込みで高待遇になる場合も

OpenWorkのデータによると、マーケティング職の平均年収は728万円(2024年末時点)。ただし、これは役職者も含む平均値のため、担当職クラスの実態とは異なります。転職直後は経験年数に応じた水準が基準となります。


6. こんな人に向いている

向いている人

「なぜ?」を掘り下げるのが好きな人 数字が動いた理由、顧客が選ぶ理由、競合が伸びている理由——常に「なぜ?」を問い続けられる人がマーケティング戦略に向いています。現象の表面だけでなく、構造を理解しようとする好奇心が重要です。

データと感性の両方を持つ人 戦略はデータで裏付けながらも、最終的には「この施策が響くかどうか」という感性が判断を左右することがあります。左脳(論理・分析)と右脳(感性・創造)を使い分けられる人が活躍します。

変化を楽しめる人 市場環境・顧客行動・テクノロジーの変化スピードが速いため、「去年うまくいったやり方が今年は通じない」という状況を楽しめることが重要です。学習意欲が高く、変化をチャンスとして捉えられる人に向いています。

幅広いステークホルダーと連携できる人 経営・営業・開発・デザイン・外部代理店など、多様な職種と日常的に連携します。相手の言語と目線に合わせてコミュニケーションが取れる人が成果を出しやすい環境です。

事業の成長に責任感を持ちたい人 マーケティング戦略の成否が事業の売上に直結します。「自分がやった施策で売上が動いた」という手触り感を求める人には、大きなやりがいがあります。

向いていない人

  • 指示されたことだけをやりたい人(主体的な仮説立案が求められる)
  • 数字を見るのが苦手な人(KPI管理・効果測定が必須業務)
  • 短期的な成果だけを求める人(戦略の効果が出るには時間がかかることがある)
  • 単独で完結する仕事が好きな人(チームや他部署との連携が常に発生する)

7. キャリアパス

一般的なキャリアの流れ

スタートライン 多くのマーケティング戦略担当者は、営業・販促・デジタルマーケティング・コンサルティングなどの経験を積んでからこの職種に転じるケースが多い。新卒でマーケティング部門に配属されるケースもありますが、担当レベルから徐々に戦略的な役割を広げていく流れが一般的です。

担当→マネージャー→ディレクター→CMO

最もオーソドックスなキャリアパスは以下です。

  1. マーケター(担当):特定の施策領域(デジタル・コンテンツ・ブランドなど)を担当
  2. シニアマーケター:複数施策を横断して戦略を立案
  3. マーケティングマネージャー:チームのマネジメントと施策全体の管理
  4. マーケティングディレクター:部門全体の方針策定・予算管理
  5. CMO(最高マーケティング責任者):経営陣として全社マーケティングを統括

事業会社 vs. 支援会社(広告代理店・コンサル)の違い

キャリア軸特徴
事業会社一本深い業界知識・自社ブランドへの愛着。昇進でCMOを目指す
支援会社→事業会社複数業界の経験を積んでから事業会社に転じる。即戦力として評価されやすい
コンサル出身論理的思考・フレームワーク活用が強み。戦略部長・CMO候補として迎えられることも
独立・フリーランスCMOフリーランスや、マーケティングコンサルタントとして独立するパスも増加中

CMOへの最短経路

CMO(最高マーケティング責任者)になるケースで共通しているのは、「戦略立案から実行・数字への責任まで一貫して担った経験」があることです。特に外資系コンサル→外資系メーカーや、広告代理店→スタートアップCMOという経路が多く見られます。

スタートアップでは、マーケティングマネージャーとして入社し、事業拡大とともにCMOポジションに昇格するケースも増えています。


8. 転職市場の実態

求人数は増加傾向、ただし即戦力が前提

2025〜2026年の転職市場において、マーケティング戦略担当の求人数は増加傾向にあります。背景にあるのは以下の3点です。

  1. 事業会社のインハウス化推進:広告代理店に任せていたマーケティング機能を自社内に取り込む動きが加速
  2. SaaS・DX企業の急成長:The Model型の組織構造が普及し、マーケティング部門の重要性が増加
  3. AI・生成AIの台頭:AIを使いこなして施策を高度化できる人材への需要が急上昇

一方で「未経験歓迎」の求人は少なく、多くは「マーケティング実務3年以上」「戦略立案経験あり」を必須条件としています。経験者市場でも特に「データ分析スキルと戦略立案力の両方を持つ人材」は慢性的に不足しています。

転職するときに評価されやすいポイント

人材エージェントの立場から見て、マーケティング戦略担当への転職で評価されやすい経験・スキルは以下です。

  • KPIに紐づく成果の数値化:「施策AでCVRを○%改善した」「予算○円でリード数○件を達成した」
  • 施策の上流から下流まで一貫した経験:市場調査→戦略立案→施策実行→効果測定
  • 業界知識:転職先の業界経験があると大きなアドバンテージ
  • マネジメント経験:チームリード・予算管理の経験は上位ポジションへの必須要件

ハイクラス求人の特徴

年収700万円以上のハイクラス求人では以下が求められる傾向があります。

  • 複数チャネルを横断した統合マーケティングの経験
  • 英語力(グローバル展開する企業やBtoBサービス)
  • データドリブンな施策改善の実績(GAやBIツールを使った効果検証)
  • マネジメント経験(部下・予算・外部パートナー管理)

9. まとめ

マーケティング戦略担当は、市場分析・顧客理解・施策設計・実行管理・効果検証まで、事業の成長を横断的に担う職種です。「なぜ?」を問い続けられる知的好奇心と、データで仮説を検証する分析力、そして多くのステークホルダーを動かす調整力が揃って初めて活躍できます。

人材エージェントとして20年見てきた中で言えることは、「マーケティング戦略で成果を出せる人は、転職市場でも非常に強い」ということです。特に数字で実績を語れる人、業界知識と戦略的思考を組み合わせられる人は、年収700万〜1,000万円台の求人でも即戦力として評価されやすい。

一方で、「マーケターになりたい」という漠然とした動機だけでは厳しい世界でもあります。まずは特定のチャネルや施策で実績を積み、そこから戦略全体へとスコープを広げていくキャリア設計が現実的です。

転職を検討している場合は、現職での担当領域と成果を数字でまとめ直すところから始めてみてください。それが、この職種への転職を成功させる第一歩になります。


10. 参照情報源