20年以上、広報・コーポレートコミュニケーション領域の転職支援をしてきた中で、ここ数年で明らかに求人数が増えてきた職種がある。「社内広報」だ。

かつては大手メーカーや金融機関の一部にしかなかったこのポジションが、今ではスタートアップから上場企業まで幅広く設置されるようになった。背景には、リモートワークの定着・組織の多拠点化・エンゲージメント経営への注目といった構造変化がある。「組織内の情報流通を誰かがちゃんと設計しないと、会社がバラバラになる」という危機感が、経営者の間で高まっているのだ。

この記事では、社内広報の実態を求人票ベースで正直に解説する。キラキラしたイメージだけではなく、地味な作業量、ステークホルダーの多さ、年収の実情まで包み隠さず書く。転職を検討している方はぜひ参考にしてほしい。


1. 社内広報とは何か

社内広報(インターナルコミュニケーション)とは、企業が社内で働く従業員に向けて、必要な情報を届けるための取り組みおよびそれを担う職種のことだ。

対になる概念は「社外広報(エクスターナルコミュニケーション)」で、メディアリレーションやプレスリリースを通じて社外に情報発信するのに対し、社内広報はあくまで「社員」がターゲットになる。

社内広報とインターナルコミュニケーションの違い

混同されやすいが、整理するとこうなる。

概念情報の流れ主な手段
社内広報経営→従業員(一方向)社内報・掲示板・社内放送
インターナルコミュニケーション双方向・全方位1on1・タウンホール・チャットツール施策など

実務では両者を明確に分けることは少なく、「社内広報担当」が両方を兼務するケースがほとんどだ。求人票でも「インターナルコミュニケーション担当」と書かれていても、仕事内容は社内報制作が中心だったりする。面接では必ず「どちらの比重が大きいか」を確認することをお勧めする。


2. 具体的な仕事内容

求人票に頻出する業務を整理すると、以下のカテゴリに分けられる。

2-1. 社内報・コンテンツ制作

社内広報の代名詞的業務。紙・Web・動画など媒体は多様化している。

  • 社内報(紙/デジタル)の企画・取材・編集・制作進行
  • 社内ポータルサイト・イントラネットのコンテンツ更新
  • 社内向け動画・ニュースレターの制作
  • 制作会社・デザイナーへの外注ディレクション

規模の大きい企業では制作会社と協業するため、ディレクション経験が重要になる。小規模企業では自分でライティングからデザインまで担う「一人広報」も珍しくない。

2-2. 経営・戦略情報の社内浸透

経営層と現場の「情報格差」を埋めるのも重要な仕事だ。

  • 経営計画・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の社内浸透施策の立案
  • タウンホールミーティング・全社集会の企画・運営
  • 社内向けプレゼン資料の作成・ファクトチェック
  • 経営層のメッセージを従業員に伝わりやすい言葉に翻訳する作業

「翻訳」という言葉を使ったが、これが実は最も難しい。経営層の抽象的なビジョンを、現場の社員が「自分ごと」として受け取れるよう再構成するスキルが問われる。

2-3. エンゲージメント向上施策

組織の一体感を作り出す仕掛けを担う。

  • 社内イベント(表彰式・懇親会・運動会等)の企画・運営
  • 部署間交流・社員インタビューコンテンツの企画
  • 従業員意識調査(エンゲージメントサーベイ)の実施・分析・フィードバック
  • インナーブランディング施策の立案と実行

2-4. 採用広報との連携

採用担当・HRとの連携も増えている業務だ。

  • 採用ページ・採用LP用の社員インタビュー取材・執筆
  • 会社のカルチャーを発信するオウンドメディア運営
  • SNSでの社員ブランディング支援(社員ブログ・X投稿支援など)

採用広報と社内広報の境界は曖昧になりつつある。「社内を良くしながら外にも発信する」という両面を担える人材が特に求められている。

2-5. 危機対応・コーポレートコミュニケーション

大企業ほど、不祥事・組織改編・M&A時の社内向けコミュニケーション設計も担う。

  • 組織再編・人事異動時の社内向け説明資料の作成
  • インシデント発生時の社内向けリリース・Q&A作成
  • グループ会社・海外拠点への情報発信(多言語対応含む)

3. 必要なスキル

ハードスキル

スキル重要度補足
ライティング・編集★★★★★社内向け文章の簡潔さ・読みやすさが命
企画立案★★★★☆「読まれる」コンテンツの企画力
プロジェクト管理★★★★☆複数施策の進行を同時にこなす
ディレクション★★★☆☆外注先・デザイナーへの指示出し
データ分析(基礎)★★★☆☆閲覧数・エンゲージメントスコアの読み解き
動画・デザインツール★★☆☆☆Canva・Premiere等。できれば加点

ソフトスキル

  • 傾聴力・共感力:現場社員の「本音」をくみ取る取材力
  • 社内政治への耐性:経営・人事・各部門の利害が交差する環境で動ける
  • 中立性の保持:広報は「会社の代弁者」である一方、現場目線も失わない姿勢
  • 粘り強さ:効果が数字に出にくい仕事なので、腐らず続けられる精神力
  • 好奇心:社内の多様な部門・人物・プロジェクトに興味を持てること

経験上、ライティングが得意でも「社内の人間関係」や「部門間の調整」が苦手な方は、意外と苦労する。この仕事は「コンテンツ制作」よりも「社内営業」の要素が大きいと思っておいたほうがいい。


4. 年収帯

公開求人(2025〜2026年)を分析すると以下の水準感になる。

キャリアステージ年収目安職位例
担当者(未経験〜3年)350万〜500万円社内広報担当・コーポレートコミュニケーション担当
中堅(3〜7年)500万〜700万円シニア担当・リーダー
マネージャー(7年〜)700万〜900万円広報マネージャー・コミュニケーションマネージャー
部長・責任者900万〜1,200万円広報部長・CCO
グローバル責任者1,200万〜1,950万円グローバル社内広報シニアディレクター(外資系・大手)

ポイントとなる注意点:

  • 企業規模による差が極めて大きい。外資系・大手上場企業と中小企業では、同じ「社内広報担当」でも300万円以上年収が異なることがある
  • 一般的な広報の平均年収は約424万円(求人ボックス調べ)だが、社内広報に特化したデータは少なく、ポジションの「格」次第で大きく上振れする
  • 給与制度において成果連動の難しい職種なので、等級・職位の上げ方が年収アップのカギになる。定期的な職種異動・昇格の機会があるかを確認すること

5. 社内広報に向いている人

20年間、広報職の転職支援をしてきて実感している「長く活躍できる人」の特徴を正直に書く。

向いている人の特徴

1. 「書くこと」より「伝えること」に情熱がある人 文章を書くのが好き、というだけでは不十分。「この情報をどうすれば現場の人が腹落ちするか」を考え続けられる人が向いている。

2. 社内の雑多な情報を楽しめる人 営業・開発・人事・経営企画……あらゆる部署を横断する仕事なので、自分の専門外の業務への興味関心が強い人が活躍しやすい。

3. 「縁の下の力持ち」に徹せられる人 この仕事は基本的に「目立たない仕事」だ。社内報を作っても作った人の名前は表に出ない。表彰イベントを運営しても主役は社員。承認欲求が強すぎる人には向かない。

4. 組織変化に柔軟に対応できる人 経営方針・組織再編・M&Aなど、情報環境が頻繁に変わる中で落ち着いて動ける人。危機時こそ冷静に「伝え方」を設計できる能力が問われる。

5. 中長期視点を持てる人 社内広報の効果は「6ヶ月後にエンゲージメントスコアが上がった」という形でしか現れないことが多い。短期の成果を追うよりも、じっくり信頼を積み上げることを好める人が向いている。

向いていない人

  • 「毎月ちゃんと成果を数字で証明したい」という人(効果測定が難しい)
  • 「会社の方針に疑問があっても伝える仕事」に違和感を覚える人(ミスマッチになりやすい)
  • コツコツした作業が苦手な人(コンテンツ量は膨大)
  • 人と話すのが苦手な人(取材・調整が多い)

6. キャリアパス

社内広報出身者の主なキャリアルート

ルート1:広報専門職として深める

社内広報 → 社外広報兼任 → 広報マネージャー → 広報部長・CCO(Chief Communications Officer)

上場企業・大手であれば、コーポレートコミュニケーション全体を統括するキャリアが描ける。特に危機広報・IR・ESG情報開示の知識を掛け合わせると、市場価値が大きく上がる。

ルート2:人事・HRBPへのシフト

社内広報 → 採用広報兼任 → HRBP(HRビジネスパートナー) → 人事部長

エンゲージメントやカルチャー形成に強みを持つ社内広報経験者は、人事・組織開発への転身が多い。HRtech企業でのカスタマーサクセスや、コンサルへの転身事例もある。

ルート3:マーケティング・ブランド職へのシフト

社内広報 → インナーブランディング担当 → ブランドマネージャー → マーケティングディレクター

インナーブランディング(社内向けブランド浸透)からアウターブランディング(社外向け)へ視野を広げるルート。コンテンツ制作・企画力が評価されやすい。

ルート4:PRエージェンシー・コンサルタントへの独立

社内広報の経験者が「社内コミュニケーション設計」の専門家としてコンサル独立するケースも出てきている。大企業が組織変革・M&A時に外部専門家を使う場面が増えており、需要がある。

キャリアアップのカギ

経験上、以下の2点が転職市場での評価を大きく左右する:

  1. 「何をやったか」より「何が変わったか」を言語化できるか。エンゲージメントスコア何点向上・閲覧率何%改善など、数値で語れるエピソードがあると強い
  2. 複数の媒体・施策を経験しているか。社内報だけでなく、イベント・動画・デジタルツールなど複数チャネルの設計経験が幅の広さを示す

7. 転職市場の実態

求人数のトレンド

2024〜2026年にかけて、社内広報ポジションの求人は明らかに増加している。背景は主に3つだ。

背景1:リモートワーク定着による「情報格差」の顕在化 テレワーク導入以降、「経営の意図が現場に届いていない」「部門間の相互理解が薄れた」という課題を感じる企業が急増した。組織規模が大きくなるほど、「誰かが専業でやらないとどうにもならない」という判断に至るケースが増えている。

背景2:エンゲージメント経営・人的資本開示の波 2023年以降、上場企業には人的資本の情報開示が求められるようになった。「従業員エンゲージメント」は開示項目のひとつになっており、これを本気で取り組む企業が担当者を設置するようになった。

背景3:スタートアップの組織拡大 シリーズB〜C以降のスタートアップが急拡大フェーズに入ると、「カルチャーの希薄化」「バリューが浸透していない」という問題が起きやすい。この解決策として、社内広報・カルチャー担当を採用する流れが定着しつつある。

採用難易度と転職市場の特徴

  • 未経験での転職は難しい。広報・PR・編集・ライター・人事のいずれかの実務経験が求められることがほとんど
  • 採用側も「何をやってほしいか」が曖昧なケースが多い。入社後に業務範囲が広がる・変わる前提で動くこと
  • 一人広報ポジションが多い。事業会社の社内広報担当は多くの場合、社内に同職種の先輩がいない。自走できる人材でないと厳しい
  • 外資系・グローバル企業は別市場。グローバル社内広報責任者クラスでは英語力必須・年収1,000万円超が珍しくない。求められる経験・スキルセットも大きく異なる

競合になりやすい経験

  • PR会社・広告会社出身の広報経験者
  • 社内報制作会社・編集プロダクション出身のエディター
  • 人事・採用広報の経験者
  • 社内ポータルやイントラネット管理の経験者

8. まとめ

社内広報は「社外に向けて華やかに発信する広報」とは対極にある、地道で地味な仕事だ。自分の名前が表に出ることはほとんどなく、施策の効果が数字に表れるまでに時間がかかる。それでも、「この会社の文化はこの人が作った」という影響を組織の深部に与え続けることができる、稀有な職種でもある。

転職市場では2024〜2026年にかけて求人が増加傾向にあり、経験者への需要は高まっている。ただし採用側の要件定義が曖昧なケースも多く、「何を任されるのか」を入社前に具体的に確認することが、ミスマッチ防止の最重要ポイントだ。

「組織を内側から動かしたい」「カルチャー・エンゲージメントで会社に貢献したい」という動機がはっきりしている人にとって、社内広報は長く・深く活躍できる選択肢になるだろう。


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