1. リード文

「社会貢献に関わる仕事がしたい」「環境問題や社会課題の解決に携わりたい」——そんな思いを持つ転職希望者から、近年ひときわ注目を集めているのがCSR・SDGs担当という職種です。

人材エージェントとして20年以上この業界に携わってきた私の肌感覚でも、2020年代に入ってからCSR・ESG・サステナビリティ関連の求人数の増加は目を見張るものがあります。2026年時点で、CSR関連の求人数は5,000件を超えており、数年前と比べて市場規模が大きく拡大しています。

しかし一方で、「CSR担当って具体的に何をするの?」「未経験でも転職できる?」「年収はどのくらい?」という疑問を持つ方も多い。本記事では、20年の転職支援経験をもとに、CSR・SDGs担当の実態を包み隠さずお伝えします。


2. 職務の概要

CSRとは何か

CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは、企業が利益追求だけでなく、環境・社会・ガバナンスへの配慮を事業活動に組み込む考え方です。

近年では「CSR」という言葉に加え、ESG(Environmental・Social・Governance)やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、さらにサステナビリティ推進という呼称が使われるようになり、求人票上では同一または類似のポジションが複数の名前で掲載されています。

用語意味主な使われ方
CSR企業の社会的責任国内企業の伝統的な部署名
ESG環境・社会・ガバナンス投資家向けの評価軸として普及
SDGs国連が定めた17の開発目標企業の活動方針として活用
サステナビリティ持続可能性全般近年のトレンドワード

これらはすべて「社会・環境への配慮を事業に取り込む」という大きな流れの中にあり、CSR・SDGs担当はその担い手です。

組織内でのポジション

CSR・SDGs担当が所属する部署は企業によって異なります。

  • CSR部・サステナビリティ推進部(専門部署)
  • 経営企画部内のCSRチーム
  • 広報・IR部内のサステナビリティ担当
  • 総務部・人事部内の社会貢献担当

大企業では専門部署が設置されているケースが多く、中堅企業では経営企画や広報部門の一機能として担当者が置かれているパターンが一般的です。


3. 仕事内容

CSR・SDGs担当の業務は非常に幅広いのが特徴です。ここでは、求人票や現場の声をもとに主要な業務を整理します。

サステナビリティ戦略の策定

企業としての中長期的なサステナビリティ方針を策定します。具体的には、マテリアリティ(重要課題)の特定、環境目標(CO2削減目標、カーボンニュートラルに向けたロードマップなど)の設定、人権方針の策定といった業務が含まれます。

この業務は経営レベルの意思決定と深く結びついており、役員や経営企画と密に連携しながら進めます。「ただの担当者」ではなく、会社の将来像に直接関われるのがこの職種の醍醐味でもあります。

ESG情報の収集・データ管理

各部署から環境データ(電力消費量、CO2排出量、廃棄物量など)や社会データ(従業員の多様性指標、労働安全の記録など)を収集・集計します。地味に見えますが、これが後述する情報開示の根幹を成す重要業務です。

現場からヒアリングしながら数値を収集し、精度を担保するための仕組みを構築するのも担当の仕事です。

サステナビリティレポート・統合報告書の作成

収集したデータをもとに、対外的な開示資料を作成します。サステナビリティレポートや統合報告書は、投資家・株主・顧客・求職者など多様なステークホルダーに向けた重要なコミュニケーションツールです。

デザイン会社や翻訳会社との連携、掲載内容の正確性チェック、経営層との原稿確認など、発行までに多くの調整作業が発生します。

ESG評価機関への対応

MSCI、FTSE、CDP(炭素情報開示プロジェクト)など、国内外のESG評価機関から届く質問票への回答対応を行います。回答内容が投資家からの評価に直結するため、正確性と説得力が求められる業務です。

この業務の経験者は転職市場で特に高く評価される傾向があります。

社内啓発・研修の企画・運営

SDGsやサステナビリティに関する社内教育を企画・実施します。全社員向けのeラーニング設計、部門別ワークショップの運営、SDGsに関する社内表彰制度の企画などが含まれます。

「会社全体を動かす」という感覚を最も強く感じられるのがこの業務で、変化を着実に起こしていく手ごたえがあります。

ステークホルダーエンゲージメント

投資家・NGO・地域コミュニティ・サプライヤーなど、多様なステークホルダーとの対話を担います。株主総会前の機関投資家との面談対応、NGOとの協働プロジェクト立ち上げ、地域貢献活動の企画など、社外との接点が多い業務です。

サプライチェーンCSR管理

サプライヤー(仕入先・外注先)に対して、人権・環境・労働基準の遵守状況を確認する業務です。質問票の送付・回答集計・現地監査の調整などを行います。人権デューデリジェンスへの対応として、近年特に注目度が高まっています。


4. 必要なスキル

必須スキル

コミュニケーション力・調整力 CSR担当は「全社を巻き込む」ことが仕事の本質です。経営企画・IR・広報・法務・人事・製造・調達など、あらゆる部署との連携が必要で、各部署の事情を理解しながら丁寧に協力を取り付ける力が求められます。

文章作成・プレゼンテーション力 複雑なサステナビリティの情報を、わかりやすく構造化して伝える力。報告書の執筆から経営層へのプレゼン、投資家向け説明資料の作成まで、高い文書・資料作成スキルが日常的に求められます。

情報収集・リサーチ力 国内外の規制動向、競合他社の取り組み、ESG評価の最新動向などをキャッチアップし続ける姿勢。サステナビリティの世界は日々変化しているため、自発的な学習習慣が不可欠です。

プロジェクトマネジメント力 統合報告書の発行、SDGsキャンペーンの実施など、複数の部署・外部ベンダーを巻き込んだプロジェクトを取りまとめる力。スケジュール管理と合意形成のスキルが実務の中核です。

あると有利なスキル

  • 英語力:グローバル企業では英語でのレポーティングや海外機関との対応が必要
  • 財務・会計の基礎知識:ESG評価と財務情報は切り離せないため、有報(有価証券報告書)を読める程度の知識が助かる
  • 環境・法規制の専門知識:温室効果ガスの算定方法(GHGプロトコル)、ISO14001、環境関連法令の理解
  • 統計・データ分析の基礎:環境データの集計・分析に役立つ

資格について

必須資格はありませんが、以下は転職時にアピール材料になります。

  • CSRデザイナー検定(日本CSR協会)
  • 環境経営士(一般社団法人環境経営学会)
  • TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)関連の学習歴
  • サステナビリティ・ファイナンス関連の研修修了証

資格よりも実務経験が重視される職種ではありますが、学習姿勢の証明として有効です。


5. 年収帯

求人データと実際の転職支援実績をもとに整理した年収帯は以下のとおりです。

経験・ポジション年収目安
未経験・第二新卒(ポテンシャル採用)350万〜450万円
実務経験2〜3年(担当者)450万〜600万円
実務経験5年以上(シニア担当者)600万〜800万円
マネージャー・部長クラス800万〜1,100万円
CSO(Chief Sustainability Officer)1,000万〜1,500万円以上
ESGコンサルタント(転身後)600万〜2,000万円以上(実力次第)

特記事項:

  • 事業会社(大企業)の担当者は500万〜700万円が中心帯
  • ESG評価機関対応の実務経験者は+50〜100万円程度の上乗せが期待できる
  • サステナビリティコンサルティングへの転身で年収が大幅に上昇するケースがある
  • 外資系企業や金融機関では1,000万円超のポジションも一定数存在する

一般的なコーポレートスタッフ職と比較すると平均的な水準ではありますが、専門性が評価されやすい市場環境にあり、実力次第で年収を伸ばしやすい職種でもあります。


6. 向いている人

20年の転職支援を通じて、CSR・SDGs担当として活躍している人には共通したパターンがあります。

社会課題への本物の関心がある人

これは最も重要な要素です。ただし「社会貢献がしたい」という気持ちだけでは不十分で、「企業という組織を通じて、長期的・戦略的に課題を解決する」ことへの共感が必要です。

NGOや社会起業家のように直接的な課題解決の手ごたえを求める方には、この仕事が合わないと感じるケースもあります。**「大きな船を少しずつ動かす仕事」**というイメージを持てるかどうかが分岐点です。

中長期の視点で物事を考えられる人

CSR・サステナビリティの取り組みは、成果が出るまでに数年単位の時間がかかります。「今期の数字に直結しない仕事をどれだけ真剣にできるか」——この問いに「できる」と答えられる方が向いています。

社内外を巻き込む力がある人

繰り返しになりますが、CSR担当は単独では何もできません。環境データの収集ひとつとっても、製造部門・施設管理部門・調達部門などへの協力依頼が必要です。権限がない中で人を動かすための、説得力と粘り強さが求められます。

地道な作業を厭わない人

サステナビリティレポートの作成、ESG質問票への回答、データの収集・集計——いずれも地味で細かい作業の積み重ねです。華やかなイメージとは裏腹に、日常業務の大半は地道な情報整理と調整です。

多様な部署・人との対話が好きな人

CSR担当は社内のあらゆる部署と接点を持ちます。さらに投資家・メディア・NGO・行政など社外ステークホルダーとの対話も多い。「いろんな人と話すのが好き」「異なるバックグラウンドの人と仕事するのが楽しい」という人には天職といえます。


7. キャリアパス

CSR・SDGs担当のキャリアパスは、この職種の歴史がまだ浅いこともあり、他の職種と比べて多様なルートが存在します。

社内での昇格ルート

CSR担当(スタッフ)
→ CSRシニア担当・リーダー
→ CSRマネージャー・部長
→ CSO(最高サステナビリティ責任者)

特に大企業では、サステナビリティ経営の重要性が増すにつれて、CSOというCXOレベルのポジションを設ける企業が増えています。経営に最も近い管理部門のひとつになりつつある領域です。

他部門へのキャリア展開

CSR担当の経験は他部門でも高く評価されます。

  • 経営企画部門:全社視点と経営層との連携経験を活かして異動
  • IR(投資家向け広報)部門:ESG開示の知見を持つIR担当として重宝される
  • 広報・ブランドコミュニケーション:ステークホルダーエンゲージメントの経験を活用
  • 法務・コンプライアンス:人権デューデリジェンス対応の専門性を活かす

転職先・独立ルート

  • ESGコンサルティングファーム:経験を武器に高収入を目指す
  • ESG格付機関・調査機関:専門的なアナリストとして転身
  • 非営利組織(NPO・財団):より直接的な社会貢献を求めて
  • フリーランス・独立:サステナビリティ経営のアドバイザーとして

私がエージェントとして見てきた中で、CSR担当からESGコンサルタントに転身して年収を大幅に引き上げたケースは少なくありません。一方で、「もっと直接的に社会に貢献したい」とNPOに転身するケースも一定数あります。どちらも「正解」です。


8. 転職市場の動向

求人急増の背景

2026年現在、CSR・ESG・サステナビリティ関連の求人は急増しています。その背景には、日本の上場企業に対する非財務情報開示の義務化があります。

金融庁は2025年11月、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示について、東証プライム市場上場企業(時価総額1兆円以上)にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準の適用を決定しました。この規制対応のため、企業側の人材需要が急拡大しています。

また、機関投資家のESG投資への関心高まりを受け、ESG評価を意識した体制整備を急ぐ企業が増えており、**「経験者の引き合いが引きも切らない」**というのが転職市場の実態です。

未経験からの転職は可能か

結論からいうと、可能です。ただし戦略が必要です。

CSR担当のポジションは、他の専門職と異なり「特定のスキルセットを持つ人」よりも「社会課題への関心・全社視点・巻き込み力を持つ人」が求められるケースが多い。そのため、バックグラウンドの多様性を受け入れる企業が多いのです。

未経験からの転職で成功しやすいのは以下のようなプロフィールを持つ方です。

  • 経営企画・IR・法務・広報などのコーポレート部門出身
  • 行政・官公庁でCSR・環境政策に関わった経験がある
  • コンサルティング会社での調査・分析業務経験がある
  • 個人的にSDGsや環境問題に深く関わってきた(ボランティア、副業、研究など)

企業規模・業界別の傾向

  • 大企業(プライム上場):専門部署があり、上位職採用が多い。実務経験者が有利
  • 中堅・中小企業:兼務ポジションが多く、立ち上げから携わるチャンスがある。裁量大
  • 製造業・商社:サプライチェーン管理・環境対応の需要が高い
  • 金融業:ESG投資対応・ESGレポーティングの専門性が求められる
  • コンサルティング:高年収・激務。知見を武器に転身するルートとして人気

9. まとめ

CSR・SDGs担当は、社会や環境への配慮を企業の中から推進していく職種です。直接的な社会課題解決よりも「企業というエンジンを正しい方向に動かす」仕事といえます。

この職種を目指すうえで大切なこと:

  1. 「社会貢献したい」という気持ちだけでなく、「企業を通じた長期的な変革」への共感を持つ
  2. 専門知識よりも、全社を巻き込む推進力と粘り強さを磨く
  3. ESG開示・報告書作成などの実務経験を早期に積む(未経験からの転職後も同様)
  4. 英語力とデータリテラシーをあわせて高めると市場価値が格段に上がる
  5. 転職市場は売り手優位の状況が続いており、今が参入のチャンス

20年間、多くのコーポレート人材の転職を支援してきた経験からいえば、CSR・SDGs担当は「人生をかけて取り組みたい仕事」と出会える確率が高い職種のひとつです。

年収だけを見れば特別に高い職種ではありませんが、「仕事を通じて社会に貢献している」という実感を持ちやすく、転職後の満足度が高い方が多い印象があります。

社会が企業に求めるサステナビリティへの取り組みは、今後さらに高まっていくことが確実です。その流れの中で、CSR・SDGs担当の重要性と市場価値は着実に上昇し続けるでしょう。


10. 参照情報源