はじめに
「経理事務」「財務事務」という仕事名は多くの人が知っていますが、「実際に何をしているのか」「経理と財務はどう違うのか」を正確に説明できる人は意外と少ないものです。
人材エージェントとして20年、数百名の経理・財務人材の転職を支援してきた立場から言わせてもらえば、この職種は「地味に見えて、実は会社の根幹を支える高度な専門職」です。AIや自動化の波で定型業務は変わりつつありますが、企業のお金を正しく管理し、経営判断を支える人材への需要はなくなりません。
この記事では、経理・財務事務の仕事の実態を求人票のデータや市場動向をもとに解説します。転職を検討している方はもちろん、これからキャリアを考えたい方にも参考になる内容です。
1. 職務の概要 ——「経理」と「財務」は別の仕事
まず整理しておきたいのが、経理と財務は同じようで異なる職種だという点です。求人票では「経理・財務事務」としてセットで扱われることも多いですが、役割は明確に分かれています。
経理(Accounting)
「過去のお金の流れを正確に記録・管理する」仕事です。日々発生する取引を帳簿に記録し、月次・年次決算をまとめ、財務諸表を作成します。企業の「会計の歴史」を正確に残すことが使命です。
財務(Finance)
「将来のお金の動きをコントロールする」仕事です。資金計画の立案、銀行や投資家との交渉、キャッシュフロー管理、予算策定など、企業が事業を継続・成長させるための資金を確保・運用します。
事務職との位置づけ
求人票に登場する「経理事務」「財務事務」という言葉は、経理・財務業務のうち比較的実務的・補助的な側面を強調した表現です。スタッフレベルでの伝票入力、請求書処理、データ入力といった業務が中心になりますが、経験を積むことで月次決算や管理会計、資金繰り管理などより上位の業務へステップアップしていきます。
2. 仕事内容 ——日次・月次・年次のサイクルで動く
経理・財務事務の仕事は、日次・月次・年次という3つの時間軸で整理すると理解しやすいです。
日次業務(毎日)
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 伝票入力・仕訳処理 | 発生した取引を会計ソフトに入力 |
| 請求書の発行・受領 | 取引先への請求書作成、受け取った請求書の確認 |
| 現預金管理 | 現金の出納管理、銀行口座の入出金確認 |
| 経費精算処理 | 社員から提出された経費精算の確認・処理 |
| 売掛・買掛管理 | 売上債権・仕入債務の残高確認 |
日次業務は「地道な積み重ね」です。ここでのミスや抜け漏れが月次・年次決算に影響するため、正確性と継続性が求められます。
月次業務(月1回)
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 月次決算 | 月末時点での収支をまとめ、損益計算書・貸借対照表を作成 |
| 支払処理 | 仕入先・外注先への支払いを実行 |
| 給与計算・支払い | 人事部と連携した給与計算と振込処理 |
| 税務申告(源泉徴収等) | 源泉所得税の納付など定期的な税務処理 |
| 経営報告資料作成 | 経営陣向けのマネジメントレポート作成 |
月次決算は「経営の通信簿」を作る作業です。締め切りに向けてスケジュール管理しながら業務を進める力が必要です。
年次業務(年1回・期ごと)
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 年次決算・監査対応 | 年度末決算の取りまとめ、監査法人・税理士対応 |
| 法人税・消費税申告 | 確定申告書類の作成・提出 |
| 固定資産管理 | 減価償却計算、固定資産台帳の更新 |
| 予算策定サポート | 翌期の予算計画立案への参加 |
| 株主総会対応 | 計算書類の作成・提出(上場企業の場合) |
年次業務は知識と経験の集大成です。税法・会計基準への理解が深まるほど担当できる範囲が広がります。
財務事務ならではの業務
経理色が強い「記録・報告」に対し、財務では以下の業務が加わります。
- 資金繰り管理:手元の現金が不足しないよう、入出金の見通しを管理する
- 銀行対応:融資交渉、当座貸越枠の確認、金融機関との関係構築
- 資金調達:増資、社債発行、補助金申請などの実務サポート
- 投資管理:余剰資金の運用、有価証券の管理
3. 必要なスキル ——資格よりも「地力」が問われる
基本的な知識・資格
日商簿記検定は経理・財務の「共通語」です。求人票を見ると、多くの企業が応募条件として以下のいずれかを設定しています。
- 簿記3級:経理事務の入口。基礎的な仕訳や決算の仕組みを理解している証明
- 簿記2級:工業簿記を含む中級レベル。月次決算や連結会計の基礎まで対応可能
- 簿記1級:大企業の経理や管理会計まで対応できる上級者の証明
ただし、資格はあくまで入口です。採用現場では「資格は持っているが実務経験ゼロ」より「簿記なしでも3年以上経理実務を積んでいる」人材のほうが圧倒的に評価されます。
ITスキル
- Excel:VLOOKUP、ピボットテーブル、マクロ(VBA)まで使えると評価が上がる
- 会計ソフト:弥生会計、freee、マネーフォワード、SAP、Oracleなど企業規模により異なる
- ERPシステム:大企業ではSAPやOracleを使った業務処理の経験が求められる
近年は**クラウド会計ソフト(freee・マネーフォワード)**の普及が著しく、これらの操作経験はスタートアップ・中小企業への転職で特に有利です。
ビジネス・対人スキル
- 正確性と几帳面さ:一円のミスが決算全体に波及する仕事のため、数字への細心の注意が不可欠
- コミュニケーション力:営業・人事・経営層など社内の幅広い部門と連携する場面が多い
- 守秘義務の意識:役員報酬・資金調達計画など会社の機密情報を日常的に扱う
- スケジュール管理力:月次締め・税務申告など絶対に遅れが許されない期限が多い
4. 年収帯 ——経験・規模・資格で大きく変わる
経験・役職別の目安(2025〜2026年)
| ポジション | 経験年数の目安 | 年収レンジ |
|---|---|---|
| 経理事務スタッフ(未経験〜) | 0〜2年 | 280〜380万円 |
| 経理担当(一人立ち) | 3〜5年 | 380〜480万円 |
| 経理・財務リーダー | 5〜10年 | 480〜650万円 |
| 経理・財務マネージャー(課長相当) | 10年〜 | 600〜850万円 |
| CFO(最高財務責任者)・財務部長 | 15年〜 | 900万〜1,500万円以上 |
求人ボックスの集計では、経理事務の平均年収は約423万円、経理職全体では約426万円となっています(2024〜2025年データ)。
会社規模別の目安
| 企業規模 | 平均年収の目安 |
|---|---|
| 中小企業(資本金2,000万円未満) | 約386万円 |
| 中堅企業 | 480〜550万円 |
| 大企業(上場・資本金10億円以上) | 600〜700万円 |
資格保有者の年収プレミアム(MS-Japanの調査より)
- 簿記2級取得者:取得なしと比較して年収+20〜50万円
- 税理士資格:年収600〜900万円台に到達しやすくなる
- 公認会計士:年収800万〜1,500万円超も視野に入る
5. 向いている人 ——「几帳面」だけじゃない
経理・財務事務に向いている人の特徴として「几帳面な人」がよく挙げられますが、20年この職種と向き合ってきた経験から言うと、それだけでは不十分です。
本当に活躍している人の特徴
1. 「なぜこの数字になったのか」を追いたくなる人 経理は単なるデータ入力ではありません。数字の背後にある事業の動きを読もうとする好奇心が、長期的な成長につながります。
2. ルーティンを磨き続けられる人 同じ業務を毎月・毎日こなす中で、「もっと効率化できないか」「ミスを減らせないか」を考え続けられる人が評価されます。単純作業に飽きてしまう人には向きません。
3. 締め切りへのコミットが強い人 月次決算、納税期限、監査対応——経理の仕事には「絶対に遅れてはいけない」期限が山積みです。逆算して動く習慣が自然に身についている人は強いです。
4. 会社の全体像に興味がある人 経理部門には、社内のあらゆる部署のお金の動きが集まってきます。「あの部署の費用が増えているな」「この事業は利益率が高いな」と会社全体を俯瞰することが好きな人は、やりがいを感じやすいです。
5. 機密情報を「当然のこと」として管理できる人 役員報酬、M&A計画、資金調達の情報を扱うことも珍しくありません。情報管理への高い意識は資質というより必須条件です。
向いていない人
- 数字の細部よりビジョンや創造性を追いたい人(→営業・マーケが向いているかもしれません)
- 人前に出て評価されたい、短期的な成果を求めたい人
- 変化が激しい環境でスピード感を楽しみたい人(→スタートアップのビジネス職向き)
6. キャリアパス ——3つの方向性
経理・財務事務のキャリアパスは大きく3方向に分かれます。
①専門職として深める(エキスパートルート)
経理スタッフ
↓
担当(日次〜月次業務を一人で回せる)
↓
リーダー(後輩育成・月次決算取りまとめ)
↓
マネージャー(部門管理・年次決算主導)
↓
経理部長・財務部長
このルートでは簿記1級・税理士・公認会計士の資格取得が年収・ポジションの大きな分岐点になります。
②経営寄りにシフト(CFO・経営企画ルート)
財務の経験を積みながら、経営企画・IR・M&Aといった経営に近い領域に移行するルートです。CFOを目指す場合、財務・管理会計の深い知識に加えて、経営戦略への理解や対外コミュニケーション(投資家、銀行)のスキルが求められます。
日本のスタートアップでは、資金調達経験のある財務人材(CFO候補)の需要が非常に高く、年収1,000万円超も現実的な選択肢になっています。
③独立・専門家ルート
税理士・公認会計士の資格を取得し、会計事務所・税理士法人・コンサルティング会社に転職、あるいは独立するルートです。企業での実務経験 × 資格の組み合わせは、独立後も強みになります。
キャリアチェンジ先として人気の領域
- 経営企画:予算管理・KPI設定など経理の延長で活躍しやすい
- 内部監査:会計知識を活かしてリスク管理・コンプライアンス領域へ
- FP&A(財務計画・分析):外資系企業で需要が高い管理会計系の職種
- 会計コンサルタント:会計基準の変更・システム導入支援などのプロジェクト型仕事
7. 転職市場の現状 ——「なくなる」は本当か
「AIで経理はなくなる」という話を耳にする機会が増えました。経済産業省の推計では2040年に事務職で約440万人の余剰が生じる可能性があるとされており、定型業務の自動化は確かに進んでいます。
では、経理・財務事務の転職市場は今どうなっているのか。実態を整理します。
需要が減っている部分
- 紙の請求書入力、単純な仕訳処理
- 給与計算の単純作業(クラウドソフトで自動化が進む)
- 経費精算の確認・承認(AI・ワークフローシステムが代替)
需要が増えている部分
- 決算・開示まで責任を持てる人材:月次・年次決算をまとめられる中堅層は慢性的に不足
- 管理会計・FP&A人材:経営判断を支える数値分析の需要は増加
- クラウド会計・ERPの導入・運用経験者:DX推進にともないシステムに強い経理人材が不足
- IPO・M&A対応経験者:スタートアップ・中堅企業でのニーズが高い
転職難易度の目安
| 経験・スキル | 転職しやすさ |
|---|---|
| 未経験(簿記3級) | やや難しい(派遣・契約から入るのが現実的) |
| 実務3年以上+簿記2級 | 比較的動きやすい |
| 月次決算まで対応可能 | 複数社から引き合いがある |
| 年次決算・税務申告まで対応可能 | 選べる立場に近い |
| 管理会計・FP&A・CFO経験 | 高年収・ハイクラス枠で争奪戦 |
ポイント: 2026年現在、経理の人材市場は「上位層(決算まで対応できる人材)は売り手市場、単純事務は供給過多」という二極化が鮮明です。転職を考えるなら、自分がどの層に位置するかを正確に把握することが最初のステップです。
8. まとめ ——経理・財務事務を選ぶ前に確認したいこと
経理・財務事務は、企業のお金を正確に把握・管理し、経営判断を支える重要な仕事です。華やかさはないかもしれませんが、専門性を積み上げるほど市場価値が上がり、長期的に安定したキャリアを築きやすい職種でもあります。
転職・就職を検討する際に確認しておきたいポイントをまとめます。
1. 担当範囲を確認する 「経理事務」という同じ言葉でも、企業によって担当範囲が大きく異なります。「日次入力のみ」から「決算・税務申告まで」まで幅があるため、面接では具体的に確認しましょう。
2. 会計ソフト・ツールを確認する 使用する会計ソフトは、大企業ではSAP・Oracle、中小企業では弥生・freee・マネーフォワードが多い傾向です。転職先での学習コストを見積もっておきましょう。
3. キャリアアップの道を確認する 「決算まで任せてもらえるか」「管理会計や資金調達に関われる機会があるか」は、5年後の市場価値に直結します。採用企業の経理部門の規模・組織を確認しておくことが大切です。
4. 資格取得のタイミングを考える 働きながら簿記2級を目指す人は多いですが、合格率は20〜30%台。転職後に腰を据えて勉強する環境があるかどうかも、入社判断の一つの基準です。
経理・財務事務のキャリアは、地道に見えて奥が深い。「数字が好き」「会社の全体像を見たい」「着実に専門性を高めたい」という方には、息の長いキャリアを築ける職種です。
参照情報源
- 経理事務/財務事務とはどんな職種?仕事内容/給料/転職事情を解説【doda職種図鑑】
- 経理事務の仕事内容とは?向いている人の特徴や未経験で転職するコツを解説|doda
- 経理の仕事内容や年収、やりがい、向いている人の特徴が図やランキングで分かる!|マイナビ転職
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