1. リード文

「経理もできて、システムもわかる人」——企業がいま最も欲しがっている人材像のひとつです。

ERPの刷新、経理DX、クラウド会計への移行。こうした大型プロジェクトが日本中の企業で同時多発的に進んでいる今、経理業務の知識とITシステムへの理解を橋渡しできる人材の需給バランスは、かつてないほど崩れています。求人サイトを開けば「会計システム担当」「経理システムエンジニア」「ERPシステム運用」といった求人が数千件単位で並んでおり、年収500〜800万円台のポジションが中小・大手問わず常に動いています。

人材エージェントとして20年、バックオフィス領域の転職を数多く支援してきた経験からいうと、この職種は「経理畑の人がシステムに足を踏み入れた」か「IT畑の人が経理ドメインに特化した」かで、キャリアの見え方が大きく変わります。どちらの出自でも活躍できる場がありますが、入り口によって求められる補強スキルと転職市場での評価が異なります。本記事では、その実態を正直に書きます。


2. 職務の概要

経理・財務システム担当とは、会計・財務領域のITシステムの企画・導入・運用・改善を担う職種です。社内ではインハウス(社内SE)として自社の会計システムを守る役割と、SIer・コンサルティングファームでクライアント企業のERP導入を支援する役割の大きく2パターンがあります。

この職種が独立して求められる理由は明確です。経理業務を理解していないエンジニアがERPの要件定義をすると的外れなシステムが出来上がり、逆にシステムをわからない経理担当者が「この帳票が出ない」と言っても現場でトラブルシューティングできません。両方わかる人間が必ず必要で、しかもその人数が絶対的に不足しているのが現状です。

職種名は企業によって異なり、以下のような表記が混在します:

  • 経理システム担当
  • 財務システムエンジニア
  • 会計システム運用担当
  • ERPシステム担当
  • 経理DX推進担当
  • 社内SE(経理・財務領域)

3. 仕事内容

実際の求人票(マイナビ転職エンジニア、doda、リクルートエージェント等)で頻出する業務内容を整理します。

会計・ERPシステムの運用・保守

  • SAP、Oracle ERP Cloud、Microsoft Dynamics 365、freee、弥生会計などの日常運用管理
  • ユーザーからの問い合わせ対応・トラブルシューティング
  • マスタデータ(勘定科目、組織コード等)の管理・更新
  • 月次・四半期・年次決算期のシステムサポート

システム導入・改善プロジェクトへの参画

  • 新規ERP導入時の要件定義・業務フロー整理
  • 既存システムのリプレースや機能追加のプロジェクトマネジメント
  • ベンダー・SIerとの折衝・仕様調整
  • ユーザー受入テスト(UAT)の設計・実施

業務改善・DX推進

  • 経理業務のRPA・マクロ化による自動化
  • クラウド会計ツールへの移行支援
  • 電子帳簿保存法・インボイス制度等の法改正対応
  • グループ会社への会計システム展開(連結ベースのシステム統一)

経理部門との連携

  • 月次・年次決算スケジュールに合わせたシステム対応
  • 経理担当者向けの操作研修・マニュアル整備
  • 内部統制(J-SOX)対応のためのアクセス権限管理

4. 必要スキル

必須に近いスキル

経理・財務の業務知識

  • 簿記2級以上(または同等の実務経験)
  • 月次・年次決算の仕組みの理解
  • 勘定科目・仕訳・財務3表の基礎知識

ITシステムへの理解

  • ERPパッケージ(SAP・Oracle・その他)の操作経験
  • 基本的なSQLの読み書き(マスタ確認・データ抽出レベル)
  • Excelの中〜上級操作(VLOOKUP、ピボットテーブル、マクロ)

コミュニケーション

  • 経理部門(非IT職)と情報システム部門(IT職)の双方と話せる「橋渡し力」
  • ベンダー折衝・仕様の言語化ができること

あると強いスキル

  • SAP認定コンサルタント資格(FI/CO/MM等のモジュール別)
  • Oracle認定資格
  • 公認会計士・税理士(または科目合格)
  • 簿記1級
  • 英語力(グローバルERPのドキュメント読み、外資系でのプロジェクト参画)
  • プロジェクトマネジメント経験(PMP、情報処理技術者等)

キャリアのスタート地点別の補強ポイント

出身得意な部分補強すべきスキル
経理・財務出身業務知識・決算フロー理解SQL・システム設計の基礎・ベンダー折衝
SE・社内SE出身システム設計・プロジェクト管理簿記・勘定科目知識・経理業務の流れ
ERPコンサル出身導入ノウハウ・複数ドメイン経験自社運用・内部統制の実務感覚

5. 年収帯

求人票(マイナビ転職エンジニア、doda、リクルートエージェント、Green等、2025〜2026年公開情報)をもとに整理した年収目安です。経験・会社規模・担当製品によって幅があります。

ポジション・経験年収目安主な業務
未経験〜1年(経理またはITの片方のみ)350万〜450万円システム運用補助・問い合わせ対応・マスタ管理
実務経験2〜4年(運用・保守中心)450万〜600万円システム運用主担当・一部改善プロジェクト参画
経験5〜8年(要件定義・プロジェクト主導)600万〜800万円ERP導入PL・業務改善リード・複数拠点対応
シニア・マネージャー(PMまたは専門特化)800万〜1,000万円全社システム戦略・大規模ERP刷新統括
ERPコンサル(SIer・コンサルファーム)600万〜1,300万円クライアント企業への導入支援・プロジェクト管理

注意点: 同じ「経理システム担当」でも、事業会社インハウスとSIer・コンサルファームでは年収の上がり方が異なります。事業会社は安定している一方で上限を感じやすく、コンサルファームは高収入ですが稼働の重さがあります。どちらが自分に合うかは転職前に明確にしておくべきポイントです。


6. 向いている人

20年間の転職支援の中で、この職種で長く活躍している人に共通していた特徴を挙げます。

1. 「なぜこの数字になるのか」を追いかけるのが好きな人 経理システムのトラブルの多くは「期待した数字が出ない」という形で現れます。原因をマスタ設定・仕訳ロジック・インターフェース処理の順に追いかけていく作業が苦にならない人が向いています。

2. 経理担当者とエンジニアの両方の言語で話せる(または話したい)人 「その勘定科目はどのモジュールでどう扱われているか」を両者に説明できる人材は貴重です。どちらか一方とだけ話せるより、橋渡しができることへの面白さを感じられる人が成長します。

3. 決算期の繁忙を前向きに受け入れられる人 月末・四半期末・年度末は経理部門全体がピリついています。そのタイミングにシステムサポートとして最前線に立つ仕事です。「忙しい時期に必要とされる」ことをやりがいにできる人が続きます。

4. 法改正・制度変更を学ぶことに抵抗がない人 インボイス制度、電子帳簿保存法、IFRSへの対応など、税務・会計制度は定期的に変わります。制度改正のたびにシステムを変更する対応が求められるため、勉強を続ける習慣がある人が評価されます。

5. 「仕組みで解決する」発想を持っている人 「毎月同じExcel作業をしている経理担当者の工数を、システムで半分にできないか」という発想が自然に湧く人は、この職種での伸びしろが大きいです。


7. キャリアパス

この職種はキャリアの広がり方が多様です。代表的なルートを整理します。

ルート1:経理・財務のスペシャリストへ

システム経験を活かしながら経理マネージャーやCFO補佐へ。財務戦略や管理会計の領域まで手を広げ、数字とシステムの両方を統括できる経理リーダーとして評価されます。上場企業のCFO・経営企画部長を目指す人がたどるルートです。

ルート2:社内SE・情報システム部門のマネージャーへ

経理システム担当として実績を積んだ後、全社のシステム統括(CIO補佐・情報システム部長)へ。ERPだけでなく、HRシステム・SCMシステムも含めた全社IT戦略の立案・推進を担います。

ルート3:ERPコンサルタント・SIerへ転身

事業会社での実務経験を武器に、SIerやコンサルティングファームへ転職するルートです。「実際の経理業務を知っているコンサルタント」は希少で、年収が大幅に上がるケースがあります。ただし、プロジェクト稼働・出張・多数の社外折衝が伴います。

ルート4:経理DX・IT企画のスペシャリストへ

クラウド会計・RPAツール・AI活用など、経理のデジタル化を専門に推進する「経理DX担当」「業務改革リード」として独自のポジションを築くルートです。スタートアップや成長企業での需要が高まっています。

ルート5:フリーランス・独立

SAP・Oracle等の高需要ERPに精通した場合、フリーランスのERPコンサルタント・社外顧問として月単価80万〜150万円での活躍も現実的な選択肢です。大型ERP導入案件が常に動いているため、スキルがあれば継続的な仕事を得やすい領域です。


8. 転職市場の実態

需要は旺盛、かつ構造的に続く

経理財務システム担当の需要が増えている背景には、いくつかの構造的な要因があります。

ERPリプレース需要の継続 SAPは2027年にECC(旧ERP)のメインストリームサポートを終了予定であり(延長対応を含めると2030年代まで続く議論はあるが)、多くの日本企業がS/4HANAへのマイグレーションを進めています。これに伴うプロジェクト人材の需要は高止まりしています。

経理DX・自動化への対応 インボイス制度・電子帳簿保存法の対応が2023〜2024年にかけて実施され、その後のシステム安定化・改善フェーズの人材が引き続き求められています。

グローバル対応・連結決算システムの整備 海外展開を進める日本企業が、グループ全体の会計システムを統一・整備するプロジェクトを進めており、グローバル対応の経験がある人材は特に高単価です。

採用で評価される経験

転職市場において採用企業が特に評価する経験を整理します:

  • ERP導入プロジェクトの要件定義〜本番稼働まで通した経験(片側だけより圧倒的に評価される)
  • 決算対応の実務(月次・年次)を理解した上でのシステム対応経験
  • ベンダー・SIerとの折衝・仕様交渉の経験
  • 複数拠点または海外子会社を含む展開経験
  • 内部統制(J-SOX)対応・アクセス権限管理の経験

転職時の注意点

求人票に「経理システム担当」と書いてあっても、実態は「ほぼ経理業務でシステム対応は年数回」という求人もあれば、「ERPの設定変更まで自分でやる」という求人もあります。面接段階で「システムの改善・設定変更を自分で行う割合」「ベンダーへの依頼が多いか、自社での内製化が進んでいるか」を確認することを強く勧めます。


9. まとめ

経理・財務システム担当は、「経理の目線」と「ITの言語」を両方持てることへの希少価値が年々高まっている職種です。片方だけの専門家は多くいますが、両方を橋渡しできる人材はどの企業も喉から手が出るほど欲しがっています。

特にERPリプレースや経理DXが続く今後5〜10年は、市場価値が下がるリスクはほとんどありません。一方で、決算期の忙しさ・制度変更への継続的なキャッチアップ・経理と情報システムの両部門から板挟みになるプレッシャーといった「泥臭さ」も現実としてあります。その上で「仕組みで経理業務を楽にしたい」「数字の根拠をシステムのレベルまで追いかけたい」という人にとって、経理・財務システム担当は長く価値を発揮できる、やりがいのある選択肢になるでしょう。


10. 参照情報源