1. リード文——「縁の下の力持ち」で終わらせない

人材エージェントを20年やっていると、営業事務という職種ほど「誤解されている仕事」はないと感じます。

求職者からは「とりあえず事務がいい」と入り口にされ、企業側からは「正直、誰でもできる」と低く見られがちです。でも実際に現場で働く営業事務の方と話すと、「受発注・在庫・書類・顧客対応・社内調整、全部ひとりでやっている」という声が圧倒的に多い。それだけ守備範囲が広く、ビジネスの実務を全方位で支える職種です。

この記事では、営業事務の仕事内容・年収・向いている人・キャリアパスを、20年の現場経験をベースにできるだけ正直に解説します。「営業事務への転職を考えている」「今の仕事を続けるべきか迷っている」という方の判断材料にしてもらえれば幸いです。


2. 職務の概要——何者なのか、一言でいうと

「営業担当者が外で売ることに集中できるよう、内側の仕事を一手に引き受ける人」 が営業事務です。

一般事務との最大の違いは、営業部門に特化していること。部署の内部業務だけでなく、顧客・取引先への対応や、受発注・納期管理といった外向きの業務も担います。営業担当が外回りや商談に集中できるのは、営業事務が社内外の調整役を担っているからです。

企業規模や業種によって業務内容はかなり異なります。メーカー・商社では受発注と在庫管理が中心になり、IT企業では契約書管理や請求業務が重くなる。不動産では物件資料の作成や顧客調整が発生する。「営業事務」という肩書きは同じでも、現場は業界ごとに全然違うというのが正直なところです。


3. 仕事内容——実際に何をしているのか

受発注処理

取引先から注文が入ると、その内容を社内システムに入力し、在庫・納期・配送の調整を行います。ミスが許されない業務で、正確さと段取り力が求められます。商社やメーカーでは一日に数十件〜数百件の処理が発生することもあり、この業務だけでもかなりのボリュームです。

見積書・請求書・納品書の作成

営業担当からの依頼を受け、各種書類を作成します。数字の扱いが多く、金額ミスは取引先との信頼問題に直結するため、正確さが絶対条件です。会社によってはExcelでの作成、会計ソフト、CRMツールなど、使うツールが異なります。

顧客対応(電話・メール)

営業担当が外出中に取引先から連絡が入ったとき、一次対応するのも営業事務の役割です。「〇〇さんはただいま外出しております」で終わりではなく、問い合わせ内容を把握して社内に連絡し、折り返しのスケジュールを調整するところまでやるのが一般的です。顧客から直接感謝される場面が多く、やりがいを感じやすい業務でもあります。

社内調整・スケジュール管理

営業担当のスケジュール管理、会議の設定、社内の関連部署(製造・物流・経理など)との連絡調整も担います。複数の営業担当を同時にサポートするケースが多く、マルチタスクが必須になります。

資料作成・データ集計

商談用の提案資料、営業実績の集計レポート、上長向けの報告資料など、ExcelやPowerPointを使った資料作成も頻出業務です。最近は、SalesforceなどのCRMやkintoneといった業務ツールへのデータ入力・管理も範囲に入ってきています。

契約書管理

締結済みの契約書のファイリング、更新時期の管理、社内稟議フローへの対応なども担当します。会社規模が大きくなるほど、この管理業務のボリュームと重要性が増します。


4. 必要なスキル——何ができると有利か

PCスキル(特にExcel)

Excelは「使えます」ではなく「VLOOKUP・ピボットテーブル・条件付き書式が使える」レベルが求められます。SUM関数だけでは厳しい。複数の営業担当のデータを集計するなら、それなりのExcelスキルが必要です。Wordは書類フォーマットへの入力が中心なので、基礎レベルで足ります。

コミュニケーション能力

社内の営業担当・管理部門・物流部門、社外の顧客・取引先など、多方向とのやり取りが発生します。聞き上手で、正確に情報を伝える力が問われます。「愛想よく接する」だけでなく、「何が必要かを瞬時に把握して動く」ことが現場では重要です。

マルチタスク・優先順位の判断力

複数の担当者から同時に依頼が飛んでくる中で、何を先にやるかを瞬時に判断する力が必要です。「全部を同時にやろうとして何も終わらない」タイプには向きません。

正確さ・細部への注意力

金額・数量・納期のミスは取引先との信頼を一瞬で壊します。「だいたいでOK」という仕事ではなく、細部まで確認する習慣がある人が求められます。

業務知識・ツール慣れ

Salesforce、kintone、freeeといったクラウドツールへの習熟は年々求められるようになっています。経理知識(簿記3級程度)があると請求処理で役立ち、TOEICスコアがあると外資系や輸出入を扱う企業で重宝されます。


5. 年収帯——正直な数字と現実

営業事務の年収は雇用形態・業界・経験年数によって大きく開きがあります。

雇用形態年収目安
正社員(未経験・入社直後)250万〜300万円
正社員(経験3〜5年)300万〜400万円
正社員(リーダー・シニア)400万〜550万円
正社員(大手・専門性あり)550万〜700万円以上
派遣社員時給1,100〜1,700円(年収換算 220万〜330万円程度)
パート・アルバイト時給1,000〜1,300円

求人ボックスのデータでは営業事務の平均年収は約440万円とされていますが、これは全雇用形態・全年代の平均です。正社員に限定しても、実態は300万〜400万円に集中している印象です。

業界別では、IT・金融・外資系メーカーは水準が高く、小売・サービス業は低い傾向があります。同じ「営業事務」でも、年収差は100万円以上開くことがあります。

エージェント視点でいうと、「年収400万円の壁」をどう超えるかが大きなテーマです。 超えるには「特定の業界知識を持つ」「英語ができる」「ITツールに強い」「マネジメントができる」のいずれかが必要になります。


6. 向いている人——現場を見てきた上での正直な答え

向いている人の特徴

「人のために動くことにやりがいを感じる人」 がいちばんフィットします。自分が前に出るより、チームを裏から支えることで達成感を得られるタイプです。

具体的にはこんな特徴がある人です。

  • 几帳面で、ミスを見逃せない性格
  • 複数のことを同時に処理するのが苦にならない
  • 人の話を正確に聞き取る力がある
  • 「頼まれたことをきっちりやる」より「先を読んで動く」のが好き
  • 感謝されることで動力が出るタイプ

向いていない人の特徴

  • 単純作業の繰り返しに強いストレスを感じる
  • 「自分が決める」「自分が動かす」という達成感が欲しい(営業や企画向き)
  • 細かいチェックが苦手で、「だいたいOK」で進めたい
  • 複数の依頼が重なったときにパンクしやすい

きついと感じる場面

「営業事務はきつい」という声が多いのも事実です。理由としてよく挙がるのは以下のとおりです。

  • 営業担当への気配りが求められ、無理な依頼も断りにくい
  • 年度末・四半期末など繁忙期に業務が集中する
  • 評価が見えにくく、給与に反映されにくいと感じる
  • 担当する営業担当との相性が業務のしやすさを左右する

ただし、「きつい」かどうかは会社・チームの文化によるところが大きい。営業事務を大切にしている会社では非常に働きやすく、逆に「事務は何でもやって当然」という風土の会社ではしんどくなります。転職する際は「営業事務がどう評価されているか」を面接で確認することが重要です。


7. キャリアパス——どこへ進めるのか

営業事務のキャリアパスは、大きく4つの方向性があります。

方向性1:営業事務の専門家・リーダーへ

同じ職種の中でキャリアを深め、チームリーダーや営業事務マネージャーを目指す。管理職の手前まで到達できれば、年収400万〜550万円のレンジに到達します。

方向性2:営業職へのシフト

顧客対応や受発注管理を通じて、営業の現場を熟知しているのが強みです。「内側を知っている営業」として評価される転職ができます。特に同業界・同業種での転職なら、即戦力として歓迎されるケースが多い。

方向性3:経理・総務・人事などのバックオフィスへ

請求書作成・契約書管理の経験を活かして、経理や法務補助への移行も可能です。簿記の資格を取得しておくと選択肢が広がります。

方向性4:営業企画・カスタマーサクセスへ

最近のトレンドでいうと、SaaS企業や成長ベンチャーで「カスタマーサクセス」「インサイドセールス」への転換を狙う方が増えています。顧客対応の経験がベースになり、ITツールへの親和性があれば転職しやすい。年収アップも狙いやすいルートです。

エージェントとして正直にいうと、「営業事務でずっと行く」より「営業事務を起点に何かに振る」という戦略の方が、30代以降の選択肢が広がります。 特に「英語×営業事務」「IT×営業事務」「簿記×営業事務」のように、専門性を一つかけ合わせると市場価値が変わってきます。


8. 転職市場——今はどんな状況か

求人数は安定的に多い

営業事務は事務職の中でもっとも求人数が多い職種のひとつです。dodaの2026年上半期レポートでも、事務・アシスタント職は緩やかな増加傾向が続いています。

未経験歓迎の求人が多い

「未経験歓迎」を掲げる求人が多いのが特徴です。PCスキルと社会人経験がある程度あれば、業界未経験でも採用される土台があります。20代後半〜30代前半であれば、ポテンシャル採用も十分狙えます。

AIとDXの影響

ここ数年、「AIやRPAで事務職はなくなる」という言説が広まっています。実態は「一部の定型業務は自動化が進んでいる」というレベルで、営業事務全体がなくなる段階ではありません。ただし、データ入力・伝票起票のような定型作業は確実に減っています。

生き残るのは「調整力・判断力・顧客対応力」を持つ人です。 AIには「この取引先は少し面倒なクレーマー気質があるから、念のり電話で確認した方がいい」という判断はできません。人間が関与しなければいけない場面は、引き続き残ります。

競争が激しいのも事実

人気職種ゆえに応募倍率は高めです。特に「残業少なめ・大手・安定」という求人には応募が集中します。求人票の条件だけで選ばず、「自分がその職場でどう成長できるか」という視点で応募先を選ぶことが転職成功のカギになります。

有利な転職のポイント

  • ExcelやSalesforce・kintoneなどのツールスキルを具体的に書く
  • 「何件の受発注を処理していたか」「何名の営業担当をサポートしていたか」など数字で実績を示す
  • 業界知識(製造・IT・医療など)があれば積極的にアピールする

9. まとめ——エージェント目線の正直な総括

営業事務は「誰でもできる仕事」ではありません。同時多発する業務を正確にこなし、営業担当と顧客の間に立ちながら信頼を積み上げていく、地味だけど高度な仕事です。

一方で、「営業事務で食っていく」だけでは年収の天井が見えやすいのも事実。30代・40代でのキャリアの幅を広げたいなら、「何かをかけ合わせる」戦略が重要になります。英語、IT、簿記、業界専門知識——どれでもいい。一つの武器を加えることで、市場価値は大きく変わります。

未経験から営業事務を目指す方には「入り口として非常に良い選択肢」です。ただし、「なんとなく事務がいいから」ではなく、「ここで何を身につけて、次にどう動くか」を少しでも考えてから転職するかどうかを決める方が、後悔は少ない。

営業事務という仕事を正しく理解した上で選ぶなら、安定と成長の両方を手にできる職種です。


10. 参照情報源