「やりたいことが分からなくて、転職活動が進まないんです」
この相談は、本当に多い。20代だけじゃなく、30代でも、40代でも出てくる。そして多くの場合、「やりたいことを探し続けている間」に時間だけが過ぎていく。
なぜ「やりたいこと」で止まるのか
「やりたいことを仕事にしよう」というメッセージは、あちこちに溢れている。キャリアコーチングでも、自己啓発本でも、SNSでも。だから多くの人が、転職活動の入り口として「自分がやりたいことは何か」を探し始める。
ところがこれが、思ったより難しい。なぜなら「やりたいこと」は抽象的だからだ。「クリエイティブな仕事」「人の役に立てる仕事」「グローバルな環境」——こういう言葉は浮かんでくるけれど、具体的な職種や業務内容にうまく結びつかない。結果、答えが出ないまま止まる。
やりたいことは、経験の後に来る
少し視野を広げると分かることがある。「やりたいこと」を最初から持っている人は、実はそれほど多くない。
多くの場合、ある仕事を続けているうちに「これは自分に合っているかも」「もっとうまくなりたい」という感覚が育ってくる。やりたいことが先にあって仕事を選んだのではなく、仕事をしているうちにやりたいことが形成されていく。
「情熱を見つけてからキャリアを選ぶ」のではなく「キャリアを進めているうちに情熱が育つ」という順番の方が、実態に近い。やりたいことが見つからないのは、経験が足りないからではなく、「やりたいことを先に探そうとしている」からかもしれない。
まず「やれること」から始める
では何を入り口にすればいいか。「やれること」、つまり今持っているスキルや経験から始めることだ。
やれることは目の前にある。これまで何の仕事をしてきたか、どんな場面で評価されたか、どんな問題を解決してきたか。これらは事実として手元にある材料だ。
たとえば「数字を整理してレポートにまとめる仕事を5年やってきた」という事実があれば、それは「データを扱うスキル」「情報を構造化して伝えるスキル」として言語化できる。次にその力が活かせる職種・業界を探す、という順番が成り立つ。
「やりたいこと」の答えが出ないうちは、「やれること」を棚卸しする方が、転職活動は先に進む。
やれることの見つけ方
どうやって棚卸しするか。いくつかの問いを使ってみてほしい。
「これまでの仕事で、自分がいちばん貢献できたと思う場面はどこか」「上司や同僚に感謝されたのはどんな場面か」「褒められても自分ではたいして難しいと感じないことは何か」
特に最後の問いが重要で、自分では「大したことない」と感じていることに、周囲から見た強みが潜んでいることが多い。当たり前にできていることは、見落としやすい。
もうひとつ有効なのは、過去の仕事を時系列で書き出すことだ。「何をしたか」だけでなく「どんな結果になったか」「何を工夫したか」まで書いていくと、パターンが見えてくる。
やれることを「やりたい」に育てる
ここが核心かもしれない。
やれることから出発しても、それをやりたいかどうかは別問題だ、と感じる人もいる。それは正しい。でも、「やれること」を深めていくと、意外と「もっとうまくなりたい」という感覚が育ってくることがある。
人は「うまくできること」に充実感を感じやすい。得意なことを使って成果を出すとき、仕事への関わり方が変わってくる。それが「やりたい」に近い状態だ。
逆に言えば、まだやったことのない仕事に「やりたい」を感じているとしたら、それはイメージだ。実際にやってみたら違ったということも珍しくない。「やれること」から出発する方が、試行錯誤のコストが低い。
まず一歩、動く
「やりたいことが見つかったら動く」は、かなり待ち続けることになる可能性がある。
動くことで見えてくることがあるし、動かないと見えてこないものがある。「やれること」を整理して、それが活かせそうな求人を5件眺めてみる。それだけでも、「あ、これは違う」「これはちょっと面白そう」という感覚が出てくる。
その感覚の積み重ねが、「やりたいこと」の輪郭を作っていく。
やりたいことが見つからないと悩んでいるなら、まず「やれること」を書き出すことから始めてほしい。難しいことじゃない。これまでの仕事で、褒められたこと、感謝されたこと、自分がうまくできたと思うことを、一枚の紙に書くだけだ。
そこが、次の一歩の起点になる。