はじめに

「総務って何をしている人なの?」

転職相談の場でこの質問を受けるたびに、少し考えてしまいます。なぜかというと、総務の仕事は企業によってあまりにも幅が広く、「一言では説明しにくい」職種だからです。

コピー機の補充トナーを手配するのも総務。株主総会の議事録を作成するのも総務。新オフィスへの移転を取り仕切るのも総務。全部、総務です。

20年間、さまざまな管理部門の転職を支援してきた経験から言えるのは、総務は「縁の下の力持ち」という言葉がこれほど似合う職種は他にないということです。表に出ることは少ないですが、総務がいなければ会社は文字通り機能しません。

この記事では、総務という仕事の実態を、求人票には書かれていない部分も含めて正直にお伝えします。


総務とはどんな職種か

総務(General Affairs)は、会社の運営に必要なあらゆる業務を担当するバックオフィス部門です。

営業、マーケティング、開発など各部門がそれぞれの専門業務に集中できるよう、会社全体の「インフラ」を整備・維持するのが総務の役割です。

大企業では総務部が独立して存在し、専門性の高いチームに分かれていることもあります。一方、中小企業やスタートアップでは、総務・人事・経理が一人の担当者に集約されているケースも珍しくありません。

企業規模別の総務の姿

企業規模総務の体制業務範囲
大企業(1,000人以上)総務部として独立、チーム制専門領域に特化しやすい
中堅企業(100〜999人)総務・人事を兼務することも幅広い業務を担当
中小・スタートアップ総務・人事・経理を一人が兼務ほぼ全業務を担当

総務の仕事内容

総務の業務は大きく以下のカテゴリに分けられます。

1. 施設・設備管理

オフィスの環境維持は総務の基本業務です。

  • 空調・照明・セキュリティ設備の管理・修繕手配
  • 清掃業者・警備会社との契約管理
  • 備品・消耗品の在庫管理・発注
  • オフィスのレイアウト変更・移転プロジェクトの統括

特にオフィス移転は、物件選定から各種業者との調整、行政への届出まで含む大規模プロジェクトになります。これをやり切った経験は転職市場でも評価されます。

2. 契約管理・法務対応

企業が締結するさまざまな契約書の管理も総務の重要な業務です。

  • 取引先との各種契約書の作成・審査・保管
  • 賃貸借契約(オフィス・駐車場など)の管理
  • リース契約(コピー機・社用車など)の管理
  • 社内規程・就業規則の整備・改定

法務部門が独立していない企業では、契約書のリーガルチェックを総務が担うこともあります。

3. 株主総会・取締役会の運営

上場企業やIPO準備中の企業では、総務が株主総会の運営を担当します。

  • 株主への招集通知の作成・発送
  • 会場・配信設備の手配
  • 議案書・議事録など法定書類の準備・保管
  • 取締役会の運営サポート

これは高度な専門性が求められる業務で、この経験がある候補者は転職市場で非常に引く手あまたです。

4. 社内イベント・福利厚生の管理

  • 忘年会・創立記念式典などの社内イベント企画・運営
  • 健康診断の手配・受診管理
  • 福利厚生制度(社員食堂、健康保険組合など)の管理・問い合わせ対応
  • 社内報の制作・配布

5. 安全衛生・危機管理

  • 消防・防災設備の点検・管理
  • 防災訓練の企画・実施
  • BCP(事業継続計画)の策定・更新
  • 衛生委員会の運営

2020年以降、BCP策定への関心が高まっており、この業務の重要性は年々増しています。

6. 行政手続き・官公庁対応

  • 各種許認可の申請・更新
  • 法人登記の管理(住所変更・役員変更など)
  • 官公庁からの調査・届出への対応

総務に必要なスキル

PCスキル(特にExcel・Word)

業務効率化のための Excel 活用(関数・ピボットテーブル程度)と、Word での文書作成は必須です。最近は Slack や Notion など社内コミュニケーションツールへの習熟も求められるようになっています。

コミュニケーション・調整力

総務は社内のほぼ全部門、そして外部の業者・行政機関と関わります。相手の立場を理解し、うまく調整する力がなければ仕事が回りません。「社内の何でも屋」として頼られる存在になるためには、人間関係の構築力が不可欠です。

法令・ルールへの理解

労働法、会社法、消防法、建築基準法……総務が関わる法令は多岐にわたります。すべてを深く学ぶ必要はありませんが、「何かあったときに適切な専門家に相談できる」レベルの基礎知識は持っておきたいです。

マルチタスク処理能力

総務には緊急の依頼が突然飛び込んでくることが日常茶飯事です。「コピー機が壊れた」「急遽役員が来るから会議室を押さえてほしい」といった依頼に対応しながら、定例業務を並行して進める力が求められます。

有用な資格

資格名難易度活用場面
ビジネス実務法務検定(2級)契約管理・株主総会対応
社会保険労務士(社労士)人事・労務との兼務時に強力
衛生管理者安全衛生管理(50人以上の事業所で必置)
防火管理者低〜中施設管理・防災対応
簿記3級経費管理・予算管理の理解

資格は必須ではありませんが、ビジネス実務法務検定2級と衛生管理者は取得していると採用面で有利に働くことが多いです。


総務の年収帯

年代・経験別の年収相場

年代・ポジション年収目安
20代(未経験〜3年目)280万〜380万円
20代後半〜30代前半(実務経験あり)380万〜450万円
30代(係長・リーダークラス)450万〜550万円
40代(課長クラス)550万〜700万円
総務部長・管理部門責任者700万〜1,000万円

※求人サイト(doda・JACリクルートメント等)の掲載データをもとにした目安です。企業規模・業界により大きく異なります。

年収に影響する要因

企業規模:1,000人以上の大企業では平均600万円前後、中小企業では400万円前後が目安です。

専門性の高さ:株主総会の運営経験、IPO対応経験、BCP策定経験など、高度な専門業務の経験が年収を引き上げます。

業界:金融・商社・IT系は総務の年収水準が比較的高い傾向があります。

エージェント目線で言うと、総務は「最初の年収は低くても、経験を積むと希少価値が上がる職種」です。特に上場企業での株主総会対応経験がある方は、転職市場で引く手あまたになります。


総務に向いている人

縁の下の力持ちとして働ける人

自分の仕事が表に出なくても、「会社が円滑に動いていること」に満足感を得られる人。感謝されにくい職種だからこそ、内発的なモチベーションが大切です。

細かいことが気にならない(むしろ得意な)人

備品の在庫管理、契約書の期限管理、法令の更新確認……。細部に気を配り、「抜け漏れを出さない」ことへのこだわりがある人は総務向きです。

人と関わるのが苦じゃない人

社内の誰もが総務の顧客です。経営層から新入社員、外部の業者まで、さまざまな人と関わります。社交的である必要はありませんが、誰に対しても丁寧に対応できることは重要です。

変化への適応力がある人

法改正対応、システム導入、コロナ禍のオフィス戦略変更……。総務は常に「新しい対応」を求められます。「前例がないからできません」では通用しない場面が多い職種です。

反対に、こんな人には向いていないかも

  • 一つの専門分野を極めて「スペシャリスト」として評価されたい人
  • 自分の仕事の成果を数値で証明したい人(総務の成果は可視化しにくい)
  • 突発的な仕事が苦手で、計画通りに仕事を進めたい人

総務のキャリアパス

パターン1:総務スペシャリストとして深める

総務としての専門性を高め続けるルートです。施設管理・契約管理・コンプライアンス対応など、各領域の専門家として企業内での地位を確立します。上場企業での株主総会対応を複数回経験すれば、総務マネージャー・総務部長へのキャリアが開けます。

パターン2:管理部門の広域責任者へ

総務・人事・経理を横断して管理する「管理部門責任者」「コーポレート部門長」へのキャリアです。スタートアップやベンチャー企業では、この役割を早い段階から担えるケースがあり、経験値を急速に積むことができます。

パターン3:専門資格を取得して差別化

社会保険労務士(社労士)を取得して人事・労務の専門家として活躍するルートや、ビジネス実務法務の専門性を活かして法務部門へ異動・転職するルートがあります。資格取得によってキャリアの幅が大きく広がります。

パターン4:IPO・M&Aを経験して価値を高める

IPO準備中の企業や、M&Aを経験した企業での総務経験は市場価値を大幅に高めます。特に「IPO総務経験者」は転職市場で高い評価を受けており、年収アップの転職が実現しやすいです。


総務の転職市場

2025〜2026年の動向

2025年以降、総務職の求人数は増加傾向にあります。その背景には以下の要因があります。

コンプライアンス強化の波:上場企業・IPO準備企業を中心に、ガバナンス強化への投資が拡大しています。株主総会運営や各種法令対応の専門人材へのニーズが高まっています。

法改正対応の需要:育児・介護休業法、労働基準法などの法改正が続いており、制度対応のできる人材が求められています。

AIによる定型業務の変化:書類管理やスケジュール管理などの定型業務はAIや自動化ツールで効率化が進んでいます。一方で、ステークホルダーとの交渉や危機管理など「人でなければできない業務」の重要性は増しており、高度な総務人材のニーズは上がっています。

転職で評価されるポイント

エージェントとして多くの総務転職を支援してきた経験から、採用担当者が特に評価するポイントをお伝えします。

  1. 上場企業での株主総会・取締役会の運営経験(最も評価が高い)
  2. オフィス移転・拠点統廃合のプロジェクト管理経験
  3. IPO準備での各種規程整備・内部統制構築への関与
  4. BCP(事業継続計画)の策定・改定経験
  5. コンプライアンス・ハラスメント防止の社内研修企画・実施

逆に言えば、これらの経験を積める環境に身を置くことが、将来の市場価値向上につながります。

未経験からの転職は可能か

基礎的な事務経験があれば、未経験から総務へ転職することは可能です。ただし「未経験歓迎」の求人は中小企業が中心で、年収レンジも抑えめになることが多いです。

転職市場での評価を高めたいなら、最初の1〜2年はある程度年収を抑えてでも「経験が積める環境」を選ぶことをおすすめします。株主総会の運営を一度でも経験すれば、次のキャリアの選択肢が大きく広がります。


まとめ

総務は「何でも屋」と思われがちですが、経験を積むほど希少価値が高まる職種です。

特に上場企業での株主総会対応、オフィス移転プロジェクト、IPO対応の経験は転職市場で高く評価されます。「目立たない仕事でもいい、でも会社を支えたい」という意識を持てる人にとっては、やりがいも安定性も高い職種です。

年収面では最初は低く見えるかもしれませんが、管理部門の責任者まで上り詰めれば700〜1,000万円のレンジも十分狙えます。

転職を検討している方は、「どんな経験が積める環境か」 を最重要視して求人を選ぶことをおすすめします。経験の質が、のちの年収と市場価値を決めます。


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